セッション情報 ワークショップ7(消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器疾患と性差

タイトル 肝W7-12:

肝癌の遺伝子変化および背景肝組織の男女差に関する検討

演者 西田 直生志(近畿大・消化器内科)
共同演者 工藤 正俊(近畿大・消化器内科)
抄録 【目的】慢性肝疾患による肝線維化の進展は肝癌のリスクであるが、性別や年齢も肝癌発症に関わり、男性は女性に比較して肝癌リスクが3~7倍と報告されている。今回、我々は、肝癌の遺伝子変化を男女別に解析し、さらに初発肝癌の臨床的背景、及び背景肝の状態を男女別に解析して、肝発癌における性差の影響を検討した。【方法】(1) 肝癌180例の臨床背景(年齢、肝炎ウイルスの有無、腫瘍径、分化度、背景肝の状態)を男女別に比較した。(2) その内の99 例の肝癌について、βカテニン遺伝子変異の有無、p53遺伝子変異の有無、異常染色体領域の範囲(400部位のマイクロサテライトマーカーを使用しFALを算出)、8種類の癌抑制遺伝子(TSG)プロモーターのメチル化レベル(遺伝子名:HIC1, GSTP1, SOCS1, RASSF1, CDKN2A, APC, RUNX3, PRDM2)、及び3種のDNA反復配列 (Alu, LINE1, Sat2) での脱メチル化レベルを男女別に比較した。(3) 442例の初発肝癌例につき、背景肝組織の線維化をウイルス別に比較した。【成績】(1) 臨床背景では、年齢 (p=0.0479)及び背景肝の状態 (p=0.0112)に男女差があり、男性肝癌例はより若く、また背景肝は非肝硬変である割合が高かった。(2) 肝癌の遺伝子異常では、異常染色体の範囲、βカテニン、p53遺伝子変異、TSGプロモーターのメチル化レベル、DNA反復配列の脱メチル化レベルに男女差は認められなかった。(3)初発肝癌例における発癌時での背景肝の線維化レベルには男女差があり、女性は線維化進行例での発癌例が多かった(p=0.0065, F0-2 vs. F3,4)。これをウイルス別に検討すると、HBV及びウイルス陰性肝癌の背景肝では男女差が認められず、HCV陽性肝癌でのみ性差が認められた(p=0.0021, F0-2 vs. F3,4)。【結論】肝癌組織の染色体、ゲノム、エピゲノム変化に男女差はなく、同じ発癌経路をたどると想定される。しかし初発肝癌の背景肝を検討した結果、男性は女性と比較し、より線維化が軽い段階でも発癌する例が多かった。これは特にHCV関連肝癌で顕著な傾向が認められた。
索引用語 肝細胞癌, 性差