抄録 |
【目的】肝癌は男性優位に発症する. ほぼ全年齢層において男性の膵癌罹患者数が女性を上回っている. 男性ホルモンアンドロジェンレセプター(AR)は核内レセプターに属するリガンド依存性の転写因子で, 癌の進展に深く関わっている. 肝癌, 膵癌進展におけるAR活性化の役割を明らかにすることを目的とした. 【方法】(1) C型肝癌におけるHCVによるAR活性化を検討するため, アンドロジェン(DHT)の存在下, 非存在下にHCV感染肝細胞, HCVレプリコン, HCVコア発現肝細胞でARの活性化をレポーターアッセイにより検討し, 更に血管新生に対する機能解析も行なった. (2) B型肝癌におけるAR活性化を検討するため, HBV粒子を産生するHepG2.2.15と親細胞HepG2におけるARを含む核内レセプターシグナル伝達経路関連分子の発現をReal-time RT-PCR arrayを用いて網羅的に解析し, 特にその阻害剤がHBVや細胞増殖に与える影響を検討した. (3) 肝細胞におけるAR-knock downのERストレスに対する影響をウエスタンブロットにて検討した. (4) 膵癌細胞において主にレポーターアッセイを用いてARの活性化を検討し, AR-siRNA等を用いた機能解析を行なった. 【結果】(1) HCVコアがDHT存在下でARを活性化し, AR下流のVEGF発現を亢進かつ血管新生を促進していた. (2) HepG2.2.15では ARシグナル伝達経路関連遺伝子NR1I3, THRAP5, MED4, CRSP6, THRAP4, THRAP1, PPARBPのmRNA発現が亢進していた. (3) AR-siRNAとHDAC阻害剤併用によりB型肝癌細胞の増殖抑制が得られた. (4) AR-knock downにより肝細胞におけるGRP78, PERK, IRE1alpha, XBP-1の発現低下を認めた. (5) ARおよびIL6Rを発現しているKP-2細胞ではDHTおよびIL6の存在下で浸潤能の亢進が認められた. KP2細胞を用いた検討でIL6によりSTAT3を介したAR シグナル伝達経路の活性化がみられた. 【結論】肝癌, 膵癌進展におけるSTAT3を介したARシグナル伝達経路活性化, ERストレス亢進の関与等の重要性が示唆された. これら経路の遮断は一部の患者の治療に役立つ可能性があると考えられた. |