セッション情報 会長講演(消化器がん検診学会)

わが国の大腸がん検診の成り立ちとその目指すもの

タイトル 会長講演4:

わが国の大腸がん検診の成り立ちとその目指すもの

演者 斎藤 博(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター)
共同演者
抄録  大腸がんは世界の先進国においてその対策が大きな課題とされ,1970年代から化学法便潜血検査による大腸がん検診のランダム化比較試験が行われてきた.その有効性が確立し,現在では化学法便潜血検査に代わり,日本で行われてきた免疫法便潜血検査を用いた大腸がん検診プログラムが各国で導入されつつある.
 この免疫法便潜血検査による大腸がん検診はわが国発で世界的に広まったことに加え,十分とはいえないまでも,わが国においては初めてがん検診法の有効性評価のために必要なプロセスを経て導入されたものとして意義が大きいと考えられる.
 がん検診法の確立のためには新規の検診法または既存の臨床診断法についてまず,精度(感度・特異度)の評価が行われる.わが国では実施の容易ながん患者を用いた精度評価が行われてきたが,実は健常者を対象にした精度評価研究が不可欠である.がん患者で評価した感度は過大評価となり,予備的なものにすぎないのである.検診の対象である健常者集団のがんは大半が早期がんであり,臨床診断されたがん患者とはがんの分布が異なるからである.ここで健常者での研究によって精度が高いことが確認され,有効性が期待できると判断された検診について最終的に死亡率を指標とした有効性評価研究が行われる.この評価研究はランダム化比較試験によるのが最善である.これら一連のプロセスが検診の有効性の科学的根拠を得るまでの基本的なプロセスであり,がん患者を対象に行える画像診断など診断技術の評価とは方法が異なることを理解する必要がある.
 免疫法便潜血検査についてはまず,糞便や抗ヒトヘモグロビン抗体に関する基礎的検討から検査法の確立を経て,大腸がん患者を用いた予備的な精度評価,次いで健常者(胃がん検診受診者)に用いて化学法便潜血検査と感度・特異度が比較された.さらにその後,観察研究(症例対照研究)ながら評価研究が行われた.残念ながらこの評価は,既に全国で半ば事業的に検診が実施され始めている段階で行われたもので,国際標準たる検診実施前のランダム化比較試験によるものではなかったが,健常者集団での精度評価が行われたこと,および実施段階の初期に有効性評価研究が行われたのはわが国のがん検診ではこれが初めてであった.今後,このような検診法の評価手法の周知により,わが国の診断技術開発力を活用し,優れた検診法が創出されることを期待したい.
 大腸がん検診の目指すべき次の段階はまず大腸がん死亡率低下という成果を実現することである.海外で成果を上げた組織型検診をわが国において確立し,検診の効果を最大化することがその方策と考えられる.次に,研究においては現在進行中の大腸内視鏡検査を組み入れた検診のランダム化比較試験を初め,わが国から今後,国際標準となる研究成果を発信して行くことであろう.現在の検診法が確立して20年以上経った現在,免疫法便潜血検査に関する新知見が主要雑誌に相次いで報告されていることは注目に値する一方で,それらが主として海外からの研究であるのは残念なことである.
 大腸がん検診の開発から現在までを振り返ると共に今後の研究について展望し,がん検診が成果を上げ,かつわが国から大きな研究成果を生み出していく道筋について考えてみたい.
索引用語