セッション情報 特別講演(消化器病学会)

肝臓,消化管における薬物,胆汁酸トランスポーターの多様性と機能-生理学的意義と創薬における重要性-

タイトル 特別講演1:

肝臓,消化管における薬物,胆汁酸トランスポーターの多様性と機能-生理学的意義と創薬における重要性-

演者 杉山 雄一(理化学研究所・イノベーション推進センター)
共同演者
抄録 薬物動態におけるトランスポーターの役割1)
 生体内では多様な輸送担体(トランスポーター;TP)が生体に必要な物質を積極的に取り込み,異物を積極的に排泄する機能を担っている.TPは生体に投与された薬物も認識し,薬物の消化管吸収・組織への分布・排泄過程に関与し,薬物動態に重要な役割を果たしている.TPの分子認識に基づいた創薬を行うことにより,薬効を維持したまま副作用に関連する組織・細胞への移行を抑える理想的な動態特性を持つ薬の開発も可能になると期待され,医薬品開発の面からもTP研究への関心が高まっている.TPは,薬物代謝酵素と同様に,分子多様性,遺伝子多型,臓器特異性,広範な基質認識性という特性を持つことがわかってきた.医薬品開発においては,in vitroからin vivoへの外挿法などを確立していくことで,医薬品開発過程での遺伝子発現系の利用,薬物間相互作用の評価,遺伝子多型による個人間変動の解析などTP研究を実用段階へと進めていく必要がある.当日はその実例を示したいと思う.
トランスポーターを用いた難治性疾患改善薬の開発2)
 胆汁酸トランスポーターBSEP(bile salt export pump)は,毛細胆管側膜上に発現し,肝細胞内から胆汁中への胆汁酸排泄を担うTPである.BSEPは進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型(PFIC2)の原因遺伝子であり,PFIC2では胆汁中への胆汁酸排泄が顕著に低下する.BSEPの胆汁酸排泄機能を増加させる化合物は,肝内胆汁うっ滞の改善薬として期待される.PFIC2におけるBSEP変異は,BSEPの細胞膜発現量を低下させるが,BSEPの輸送機能自体には影響を与えないことがわかり,ここを標的とした治療薬の探索を行い,4-フェニルブチレート(4PBA)が活性があることがわかった.その後の研究で,4PBAはBSEPの細胞膜からの分解を抑制することにより,BSEPの細胞膜発現量を増加させ,細胞膜を介した胆汁酸輸送を亢進させること,またBSEPの短鎖ユビキチン化を抑制することにより,BSEPの細胞膜からの分解速度を遅延させることもわかった.現在,臨床試験も行われており,一部の結果が出ているので,紹介したい.
(引用文献)
1) Giacomini KM and Sugiyama Y. Membrane transporters and drug response, in “Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics 12th Edition”, (Brunton LL, Chabner BA, Knollman B, eds) Chapter 5, McGraw-Hill Companies, New York, NY, pp 89-122 (2011).
2) Hayashi H, Inamura K, Aida K, Naoi S, Horikawa R, Nagasaka H, Takatani T, Fukushima T, Hattori A, Yabuki T, Horii I, Sugiyama Y. AP2 adaptor complex mediates bile salt export pump internalization and modulates its hepatocanalicular expression and transport function. Hepatology, 55(6): 1889-900 (2012)
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