セッション情報 | 特別講演(肝臓学会)多彩な加齢疾患に関わるKlothoの機能,病態,治療法開発 |
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タイトル | 特別講演6:多彩な加齢疾患に関わるKlothoの機能,病態,治療法開発 |
演者 | 鍋島 陽一(先端医療センター) |
共同演者 | |
抄録 | 作成したトランスジェニックマウス系統からホモ変異体を樹立し,klotho (α-klothoに改名)変異マウスを発見した.Klothoはギリシャ神話の運命の3女神の一人で,生命の誕生に立ち会い,生命の糸を紡ぐ女神である.α-klotho変異マウスは一見,正常に生まれるが性成熟する頃にヒトの老化症状に類似した多彩な変異表現型を示す.Plasmid rescue法により外来遺伝子挿入部位を同定し,原因遺伝子α-klothoに辿り着いた.α-Klothoはβ-glycosidaseホモログであり,腎尿細管,副甲状腺,脳の脈絡叢で主に発現しており,細胞質型,細胞膜型,分泌型として存在する.また,α-klotho遺伝子の発現が顕著に亢進した患者を発見し,他のグループが発見したミスセンス変異と併せてα-klotho遺伝子の変異に基づくヒト疾患の存在を確認した. α-Klothoは発現細胞においてNa+,K+-ATPaseと結合する.α-Klotho・Na+,K+-ATPase複合体はエンドソームに蓄積しており,細胞外カルシウム濃度の低下に応答して素早く細胞表面へと移動,細胞表面量(機能)の増大の結果として作り出された Na+ の濃度勾配,膜電位の変化によって腎遠位尿細管におけるカルシウムの再吸収,脈絡叢における脳脊髄液へのカルシウムの輸送,副甲状腺におけるPTH分泌が誘導され,血液,脳脊髄液のカルシウム濃度が制御される.一方,細胞膜型α-KlothoはFGF23,FGFR1と複合体を形成,ビタミンD合成を負に制御している.これらの結果から,我々は「α-Klothoはカルシウム恒常性の制御因子である」と提唱した.カルシウム代謝は「時間軸にそった多段階の反応の組み合わせ」と「複雑な相互作用,フィードバック機構」によって制御されており,血液・体液,脳脊髄液のカルシウム濃度が迅速に調整され,狭い範囲に保持される. α-Klothoは極めて弱いがβ-Glucuronidase活性をもつ,即ち,グルクロン酸結合モチーフをもつ.また,全てのα-Klotho結合タンパク質の糖鎖は一定の割合でグルクロン酸修飾を受けており,このグルクロン酸をα-Klothoのグルクロン酸結合モチーフが認識し,特異的/選択的な結合を実現しているおり,「α-Klothoはグルクロン酸を認識する新規レクチン様因子」と結論した.更に,FGF23より同定した新規O型糖鎖(末端はグルクロン酸)がα-Klothoに結合,α-Klotho をFGF23と結合しやすい状態へとシフトさせる機構を解明,「タンパク間相互作用における糖鎖の新たな機能」を提唱した. μ-カルパインの顕著な活性化がα-Klotho変異マウスの多彩な老化類似症状をもたらす要因であることを見いだし,阻害剤投与により動脈の石灰化,骨密度の低下,骨の形成異常,肺気腫,皮膚の老人性萎縮などの多様な症状が顕著に改善することを確認し,カルパインの活性制御が重要な創薬ターゲットであることを示した. α-klothoのホモログ,β-klothoを同定した.β-Klothoが肝臓において胆汁酸合成を負に制御する機構を解明した.次いでアミノ酸代謝の新たな制御機構,コレステロール合成制御におけるβ-Klothoの機能の解明へと研究が展開している.α-Klotho,β-Klothoシステムの共通性,恒常性維持機構における位置づけ,重要性を考察したい. |
索引用語 |