セッション情報 教育講演1(JDDW)

「消化器癌のサーベイランス」肝がんサーベイランス 2013

タイトル 教育講演1:

肝がんサーベイランス 2013

演者 佐田 通夫(久留米大・消化器内科)
共同演者
抄録  本邦の原発性肝がんによる死亡者数は年間3万人を超えており,男性は死因の第4位,女性は第5位である.肝がんは,早期発見により外科的切除術やラジオ波焼灼療法などの根治的な治療が可能となることから,肝がんサーベイランスは予後の改善に繋がると考えられる.肝がんは慢性肝疾患患者に高頻度に発症する.しかし,その頻度は一様でないことから,サーベイランスの手法は肝疾患の成因と肝線維化の程度により異なる.科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン(日本肝臓学会編)ではB型慢性肝炎,C型慢性肝炎もしくは肝硬変患者を「高危険群」に,B型肝硬変とC型肝硬変患者を「超高危険群」に定めている.高危険群に対しては6ヵ月に1度,超高危険群に対しては3~4ヵ月に1度の腹部超音波検査と血清腫瘍マーカーによるサーベイランスが推奨されている.サーベイランスを受けていた高危険群の患者は,サーベイランスを受けなかった患者に比べて肝がんが早期発見されるという研究結果がこれまでに多数報告されており,本サーベイランスの有用性が示されている.また,近年,腫瘍マーカー(高感度AFP-L3分画,改良型PIVKA-II)や画像検査(造影エコー,Gd-EOB-DTPA造影MRI)の進歩により肝がんの診断技術は向上している.これらの検査を適切にサーベイランスに組み込むことで,高危険群および超高危険群における肝がんサーベイランスの意義はさらに高まると考えられる.他方,肝がんを発症する患者の特徴が変化していることに留意しておく必要がある.HCV関連肝がんは,これまで肝硬変を経て肝がんを発症する場合が一般的であったが,現在では,肝硬変を経ずに肝がんを発症する症例が増加している.また,インターフェロン治療により持続性ウイルス陰性化が得られた患者からも肝がんが発症する場合があり,これらの発がんの原因として加齢,飲酒,肥満,糖尿病およびその治療薬,潜在性HBV感染などが報告されている.B型慢性肝疾患の治療は核酸アナログ製剤の登場により飛躍的に進歩したものの,未だHBV関連肝がんは減少していない.肝細胞核内のHBV cccDNAと相関する血清HB コア関連抗原は,核酸アナログ服用時における肝がんの発症の危険因子であることが報告されている.このように,各患者に適したサーベイランスを行うためには,肝線維化に加えて,他の危険因子の状態を把握する必要がある.HBs抗原およびHCV抗体が陰性の非B非C肝がんは,近年,その患者数が増加しているだけでなく,進行癌で診断される場合が多い.非B非C肝がんの基礎疾患として自己免疫性肝疾患,非アルコール性脂肪性肝障害,アルコール性肝障害,糖尿病,潜在性HBV感染症などが報告されているものの,これら全ての疾患を有する患者をサーベイランスすることは人的資源や対費用効果の点から現実的でなく,ハイリスクグループ設定のための危険因子の同定が急務である.最近,我々は非B非C肝がんの発症の特徴をデータマイニングにより解析し,非B非C肝がんのサーベイランスに有用と思われる危険因子を同定した.本教育講演では,肝癌診療ガイドラインの肝がんサーベイランスについて概説するとともに,新たな診断法や近年の肝がんの特徴についても紹介する.また,今後も増加が予想される非B非C肝がんに対するサーベイランスについて,当科での研究結果を含めて論ずる.
索引用語