抄録 |
がんの統計によると,わが国の膵癌による罹患数は年間29,025名(2007年),死亡数は年間28,829名(2011年)であり,依然増加傾向にある.また,罹患数と死亡数がほぼ同数であること,切除例も含めた5年生存率が10%以下であることなど,膵癌は極めて予後不良の癌腫である.現在,切除手術が唯一膵癌に対する根治治療であり,早期診断の確立が望まれるが,未だ多くが切除不能の状態で診断されている.1) 膵癌診療ガイドラインの改訂 2013年,膵癌診療ガイドラインが改訂される予定であり,リスクファクター,診断手順,化学療法など新たなエビデンスも出てきている.早期の膵癌診断については,リスクファクターを有する例でのスクリーニングの重要性や早期発見を目指した地域連携の取り組みも行われている.また,リスクファクターのひとつである家族性膵癌ではプラチナベースの化学療法が極めて有効との報告も出てきている.2)切除不能膵癌に対する化学療法わが国では2001年よりゲムシタビン(GEM)単独療法が切除不能膵癌に対する標準化学療法として用いられてきた.その後,新たな治療法の開発が積極的に行われてきたが,必ずしもよい結果は得られていなかった.その中で,上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬エルロチニブがGEMとの併用により,有意な生存期間の延長を示している.わが国でも日本人での安全性確認のための第2相試験が行われ,2011年保険適用が承認された.一方,経口フッ化ピリミジン薬S-1は第2相試験で有効性が見込まれ,2006年適用が承認された.その後,GEM,S-1,GEM+S-1併用(GS療法)の3群による第3相試験(GEST試験)が実施され,GEMに対するS-1の非劣性が証明されたものの,GS療法の優越性は得られなかった.これらのエビデンスにより,2013年の改訂版ガイドラインでは切除不能膵癌に対する標準化学療法として,GEM,S-1,GEM+エルロチニブが推奨されている.最近,海外では5-FU,ロイコボリン,イリノテカン,オキサリプラチンを併用するFOLFIRINOX療法およびGEM+ナブ-パクリタキセル併用療法が相次いでGEMに対して有意な生存期間の延長を示し,わが国でもこれらの治療法が近く導入されるものと期待されている.今後,膵癌治療も多様化が見込まれ,適切な選択と確実な実施が求められるものと考えられる.3) 切除後補助療法の動向GEMが切除不能膵癌の標準治療として確立した後,術後補助療法でもGEMを用いた検討が行われてきた.海外で行われたGEMと手術単独との比較試験(CONKO-01試験),GEMと5-FU+folinic acidとの比較試験(ESPAC-03試験),わが国で行われたGEMと切除単独の比較試験(JSAP-02試験)の結果,GEMが標準術後補助療法として広く用いられてきた. 最近の動向として,海外ではGEM+カペシタビンなどの併用療法やFOLFIRINOXなどによる術後補助療法が行われている.わが国ではS-1とGEMとの第3相試験(JASPAC-01試験)の結果が2013年1月公表された.当初GEMに対するS-1の非劣性を検証するデザインであったが,GEMに対するS-1のハザード比が0.56と有意に良好な成績が得られ,優越性が証明された.2013年改訂ガイドラインでは,治癒切除後の補助療法はS-1が第一選択の治療として推奨されている.現在,直接の抗腫瘍効果の高いGEM+S-1併用を用いた術後補助療法あるいは術前補助療法の臨床試験が進められている. |