抄録 |
他のがんと同様,胃がんも遺伝子異常の重複により臨床的胃がんへと発育することが知られているが,H. pyloriの出現によりその概念や診療における対応が大きく変わってきた.本教育講演では,現時点での胃がんのサーベイランスに関する最近の変化を紹介する.1)胃がんの疫学と自然経過悪性腫瘍の中でも罹患率が最も高く,死亡者数は肺がんに次いで2番目である.最近の疫学における動向では,H. pylori感染率の推移と並行して若年者の胃がん死亡率は著明に低下しているが,高齢者の胃がん死亡者数は逆に増加している.胃がんは,分子レベルの発がんから内視鏡で観察可能な大きさに発育するのに10年以上を要すると推測されているが,H. pylori感染は早期の段階におけるpromoterとして胃がんの発育に関与している.その後,臨床的に内視鏡治療可能な早期がん,外科的切除が可能な早期から進行がん,そして腹膜浸潤や遠隔転移を有する予後不良な進行がんに発育していく.2)H. pylori除菌による胃がんの予防現時点で分子レベルでの発がん予防をヒトで確認する手段はないが,H. pyloriの除菌による胃がん予防が注目されている.中でもEMR後の除菌による異時性胃がんの発見頻度が低下するとの報告が有名であるが,除菌後にも胃がんが発見されるケースもあり,除菌による胃がん予防が完全でない点に注意する必要がある.3)胃がんの早期発見方法H. pylori除菌による胃がん予防が完全でない現在,胃がん対策には早期発見が重要である.わが国は胃がんの最多国であり,従来,バリウム検診を中心として胃がんの早期発見に対する努力が払われてきたが,最近.バリウム検診に多くの課題がみられる.一方,胃粘膜の萎縮性変化を判定できる血清ペプシノゲン法(PG法)と血清のピロリ抗体を利用した『胃がんリスク検診』が注目されている.この方法は,X線や内視鏡のように病変を直接調べるものではなく,H. pylori感染の有無とPG値から背景胃粘膜の胃がんリスクを判定する方法である.今後,胃がんによる死亡者を減少するためには血清学的に判定可能であるPG法と血清抗体法を使用した『胃がんリスク検診』と除菌治療を組み合わせた戦略が必要と思われる.その他,来るべきH. pylori陰性時代を考慮してH. pylori感染に関連のない胃がんについても言及したい. |