抄録 |
従来,大腸癌肝転移の外科切除は「門脈循環内における転移は局所治療の適応」といった概念で開始されたが,近年の化学療法 (化療)の進歩と相俟ってその適応は著しく拡大されてきた.切除は本疾患の治療成績を確実に改善させるため,今後さらなる適応拡大が望まれるが,このためには化療の進歩に加えて,肝切除手技の工夫や切除技術の向上が必須である.一方,適応拡大に伴って,局所病変に対する切除というよりはむしろ全身病の中での外科切除といった位置づけで切除戦略を考える必要も生じている. 肝切除技術の工夫・向上に関しては,「門脈塞栓術あるいはこれに計画的二期的切除を併用した手技」や「脈管合併切除・再建を伴う肝切除」などが挙げられる.二期的切除の中でも近年報告され,とくに残存予定肝容量の早急な増大を期待した手技としてAssociated liver partition and portal vein ligation for staged hepatectomy (ALPPs)手技や,門脈塞栓術における骨髄由来幹細胞の門脈内同時投与,門脈塞栓術と肝静脈塞栓の併用などがある.このうちALPPsによる二期的切除は,右三区域切除を主とした術式に適応され,従来法と異なる点は,初回切除の際,右肝の脱転・4 glissonの切離・左上肝裂の実質切離,を右門脈結紮術に加えた点である.これにより非常に短期に残存予定肝容量 (FLR)の増大が得られ,平均9日でFLRの75%程度の容量増大が得られる.またCD133陽性骨髄由来細胞あるいはCD34陽性骨髄由来細胞を門脈塞栓と併用して門脈内投与すること,あるいは肝静脈塞栓を門脈塞栓と併用することで早期のFLRの増大が得られる.一方で,肝内脈管の合併切除・再建を駆使することで複数個所の比較的小範囲の切除で転移巣切除が可能となり,症例を選択すれば二期的切除等施行しないでFLRの温存が可能となる. 全身病の一部の治療といった概念に基づく戦略としては,「化療による消失(CR)病巣を遺残させた肝切除」や「切除断端に癌が一部露出するようなR1切除」に加えて,「同時性転移例に対するliver-first reversed management」,「焼灼治療のTest-of-time approach」が挙げられる.CR病巣遺残,R1切除は局所病変に対する治療としては極めて不適切なものであるが,高度進行肝転移ではこれら治療で長期成績を損なうことはないと報告されている.一方,従来,同時性の切除不能肝転移例に対しては原発巣を切除したのち化療を行い奏効例に対して肝切除を行ってきたが,liver-first アプローチは,まず化療を行い,肝転移が奏効した時点で肝切除を先行し,こののち原発切除を行うといった方法である.本法は,原発巣切除先行による化療導入の遅延を回避すること,肝切除可能となったベストタイミングを原発巣治療で喪失しないこと,そして,おそらく生命規定因子となる肝転移を早急に可及的に除去すること,を目的としている.一方,焼灼のTest-of-time approachは,診断から切除までのIntervalに焼灼術を行い,焼灼治療が十分であれば切除を回避し,遺残あるいは局所再発の場合のみ切除を考慮するといった方法であり,原発術後早期の肝転移にのみ同様のアプローチを行うといった報告もある.Meta-analysisの結果からは焼灼のみの長期成績は切除に及ばないことは明らかであるが,全身病における潜在性病変の顕在化を目指すwait-and-seeのスタンスで使用する場合には有効な手段と成り得る. 以上,本講演では大腸癌肝転移治療の現状と問題点に関して,上記のような点に注目して教室の治療成績もふまえながら報告する. |