セッション情報 消化器外科学会特別企画4(消化器外科学会)

消化器外科学会特別企画 「膵癌診療 国内外のUp to date」

タイトル (講演)外企4-2:

膵癌診療 国内外のUp to date(内科)

演者 上野 秀樹(国立がん研究センター中央病院・肝胆膵内科)
共同演者
抄録  切除不能進行膵癌や再発膵癌に対しては化学療法の延命効果が示されており,日常診療で広く行われている.本講では,これまで実施されてきた臨床試験の結果に基づき,進行膵癌に対する化学療法の現状と展望を述べる.
 進行膵癌に対する化学療法の有用性は以前は明らかにされていなかったが,1996年に5-FUに対するgemcitabine(GEM)の延命効果が示され,標準治療として認識されるようになった. その後,より優れた効果を求めてGEM-based combinationが多数試みられてきたが,ほとんどのGEM-based combinationは第3相試験でGEMに対する全生存期間(OS)の優越性を示せなかった.2005年にようやくチロシンキナーゼ阻害剤のerlotinibとGEMの併用療法の優越性が示されたが,OSの改善がわずかであったことから副作用やコストを考慮した臨床的意義に関しては高い評価が得られなかった(OS中央値 5.9ヶ月 vs. 6.2ヶ月,HR 0.82,P値0.038).その後も期待されていたoxaliplatin,capecitabineなどの殺細胞薬やbevacizumab,cetuximabなどの分子標的薬を用いたGEM-based combinationが次々とnegativeな結果に終わったことからGEM-based combinationに対する失望感が広がった.
 ところが最近になり,停滞ムードが漂っていた今までの状況を大きく変える成果が相次いで報告された.一つは2010年に発表されたPRODIGE 4 / ACCORD 11試験で,本試験ではGEMに対するFOLFIRINOX(5-FU/leucovorin+irinotecan+oxaliplatin)の明確な優越性が示された(OS中央値 6.8ヶ月 vs. 11.1ヶ月,HR 0.57,P値<0.001).FOLFIRINOXの成功により,GEMを含まない5-FU-based combinationを一次治療で行うことの妥当性が示された.さらに2011年には日本と台湾で行われたGEST試験により,GEMに対するS-1の非劣性が示された.FOLFIRINOXは中心静脈カテーテルが必要なことから今後はS-1などの経口5-FU製剤を使用したレジメンの開発が検討されると思われる.一方,negative続きであったGEM-based combinationに関しても明るいニュースが2013年に報告された.MPACT試験にて,GEMに対するGEM+nab-paclitaxelの明確な優越性が示されたのである(OS中央値 6.7ヶ月 vs. 8.5ヶ月,HR 0.72,P値<0.001).FOLFIRINOX程の大きなOSの改善は見られなかったが,良好な抗腫瘍効果と安全性が示されたことから今後普及していくことが予想される.なお,FOLFIRINOXやnab-paclitaxelは2013年3月現在日本においては膵癌に対して保険適用とはされておらず,承認を目指した治験が進行中である.
 以上,進行膵癌に対してはGEM単独療法が日常診療で長らく使われてきたが,今後は全身状態が良好な患者に対しては5-FU-based combinationやGEM-based combinationが積極的に行われていくことになると思われる.併用療法は高い効果が期待される反面,毒性が増強し発熱性好中球減少や下痢などに対する適切なmanagementが現場では要求されることから,medical oncology教育の重要性がさらに高まるもとと思われる.また,増加していく医療費に関心を持つことも大切である.
 膵癌の予後は,化学療法の進歩によって少しずつではあるが確実に改善している.しかし,imatinibやtrastuzumabに匹敵するような分子標的薬は膵癌に対して開発されておらず,さらなる飛躍のためには膵癌のbiologyへの理解の深まりが必要不可欠である.その道のりは厳しいが,画期的な診断法や治療法が遠くない将来に開発されることを期待したい.
索引用語