セッション情報 消化器病学会特別企画2(消化器病学会)

Helicobacter pylori 除菌治療 -コンセンサスと今後の展開-

タイトル 消企2-1指:

胃炎に対する除菌治療適用拡大の流れとその意義

演者 上村 直実(国立国際医療研究センター国府台病院)
共同演者
抄録 2013年2月に公知申請により承認された『H. pylori感染胃炎』に対する除菌治療適用拡大の意義を紹介する.
I.『H. pylori感染胃炎』の診断法と除菌治療
実際の診療現場において,内視鏡受診者のうち内視鏡所見から『胃炎』と診断された患者に対するH. pylori感染検査が保険適用となった.その上でH. pylori陽性と判定された場合,『H. pylori感染胃炎』として除菌治療が保険適用対象となっている.本学会では,診療現場での疑問点点に応えるべく学会ホームページでQ&Aを公開している.
II.胃炎への適用拡大の意義
1)わが国の『慢性胃炎』には,1.組織学的胃炎である『H. pylori感染胃炎』,2.内視鏡検査等において胃の粘膜がただれているなどで示される内視鏡的胃炎,3.自覚症状で定義される症候性胃炎,4.保険病名としての慢性胃炎など4つが含まれていた.この中で,器質的疾患としての『H. pylori感染胃炎』および機能的疾患としての『機能性ディスペプシア』が保険病名として独立したことから,『慢性胃炎』の概念と医療現場における取扱が大きく変化する.
2)最近,胃癌バリウム検診の受診率が非常に低いこと等が問題となっているが,バリウム検診ないしはバリウムによる上部消化管検査にも消化管穿孔のリスクが高いことも判明している.このような状況の中,血液で胃癌のリスクを判定するABC胃癌リスク検診が注目されている.胃癌リスク検診と保険診療可能となった『H. pylori感染胃炎』に対する除菌治療の組み合わせによって胃癌予防ないしは内視鏡検査での早期発見による胃癌死亡者の減少効果が期待される.
3)内視鏡による胃癌の早期発見により高価な分子生物学的抗癌剤の需要抑制のみならず除菌による胃癌自体の抑制効果や消化性潰瘍等H. pylori関連疾患の発症予防効果による医療費の抑制効果も大きいものと思われる.
以上,診療現場における適用拡大の意義は,『慢性胃炎』における「医学と医療の乖離」の是正,胃癌死亡減少への貢献,医療費の抑制効果の3点が主なものである.
索引用語 H. pylori, 慢性胃炎