セッション情報 消化器病学会特別企画2(消化器病学会)

Helicobacter pylori 除菌治療 -コンセンサスと今後の展開-

タイトル 消企2-8指:

除菌治療保険適用拡大と胃がん検診-今後の展開-

演者 一瀬 雅夫(和歌山県立医大・2内科)
共同演者 井上 泉(和歌山県立医大・2内科), 加藤 順(和歌山県立医大・2内科)
抄録 H.pylori (Hp) が胃癌最大のリスクファクターであり,慢性感染症であるHp感染胃炎の結果,胃癌発生に至る事は,臨床疫学的,病理学的検討,そして動物実験などにより広く受け入れられる所となっている.このため胃癌発生の最大要因解消を目的としたHp除菌治療は胃癌発生抑制に繋がる理想的な胃癌一次予防策として一般の期待を集めて来た.従って,Hp感染者全体を対象とする事になる今回の除菌療法保険適用拡大は,世界屈指の胃癌大国である我が国において,これまで次善のがん対策(二次予防策)として行われて来た胃がん検診の在り方に今後大きな影響を及ぼすものと予想され,一部には早々と胃がん検診不要論まで喧伝されている状況にある(日本内科学会雑誌100; 2402-2411, 2011).しかし,Hp感染者が除菌により,以後胃がん検診不要,あるいは無視し得るレベルまで胃癌リスクが低下するかに関しては慎重かつ冷静な判断が必要と考える.特に,一般健常人を対象にしたHp除菌治療が有意な胃癌発生抑制効果を長期間にわたってもたらす事を明確に示した報告はない事,また,消化性潰瘍患者や早期胃癌内視鏡治療後症例を対象にHp除菌による胃癌発生抑制効果を明確に示したとされる報告に関しても,事後の胃がん検診や管理精検が不要になる事を示すものは皆無の状態であり,むしろ事後の経過観察の必要性が認識されるデータばかりである.また,Hp感染胃炎からの発癌メカニズムの詳細が充分に明らかでない現状ではあるが,Hp感染が長期化間持続した場合,除菌療法による胃癌発生抑制効果が限定的になる事を示す信頼すべきデータが複数報告されており,我が国のHp感染者の大半が高齢層へと齢を重ねつつある現状を考慮すると無視し難いデータである.本特別企画では,以上の諸点について演者らの長期観察研究のデータをも含めて明らかにすると共に,除菌治療施行に際して対象者に対し,効果の限界に関する充分な告知と事後の経過観察~胃がん検診受診への適切な指導が必要である事を強調したい.
索引用語 Helicobacter pylori, 胃がん検診