抄録 |
食道癌治療における最近10年のキーワードは,術前化学療法,胸腔鏡手術,ESD, PET,NBIなどであった.これらを踏まえて次の10年を予測してみたい.1. 腹臥位胸腔鏡手術はsolo surgeryが可能という簡便性や肺を圧迫しないので組織障害が少ないという利点により今後浸透することは間違いない.一方で開胸手術はT4やサルベージ手術など限られた症例が適応になるであろう.2. 化学療法は微小転移を殲滅することにより,全身病となった癌を局所病へ引き戻す可能性がある.分子標的薬の発達により,これまで諦めていた遠隔リンパ節や血行性転移が手術適応となる可能性がある.手術の低侵襲性・安全性の向上は手術へのアクセスをより容易にするであろう.3. 放射線療法は健常部の組織障害を減らすことにより威力が発揮される.逆にいうと領域リンパ節への予防的照射は低侵襲化する手術よりも劣る可能性が高い.一方で限局する癌では重粒子などは手術と同等の抗腫瘍効果を示すようになり第一選択となる可能性がある.4. 食道扁平上皮癌は免疫原性が高く免疫療法が有望な癌である.免疫療法は腫瘍量が少ないほど効果が高いので,まず根治切除後の補助療法として臨床応用されるであろう.5. これらの発達により食道癌にも漸く複数の治療手法が確立されるであろう.そうなって初めて長年の夢であった個別化治療に近づくことができるかもしれない. |