抄録 |
今世紀に入って大腸癌外科治療における変革をもたらした最大のものは,腹腔鏡手術と補助療法といえよう.腹腔鏡手術の発展に伴い,その長所は当初期待された低侵襲性のみにとどまらず,その拡大視効果によって従来は認識が困難であった解剖学的構造物の理解が容易となった.そしてその効果は特に骨盤内における直腸癌手術において最も発揮されることが分かってきた.今後の適応拡大に向けて,安全性のみならず,腫瘍学的側面,手技の標準化,教育といった問題点を克服していく必要がある.近年,様々な新規抗がん剤や分子標的薬の導入により,補助療法もめざましい発展を遂げているが今後解決すべき問題は多い.Stage III症例における術後補助化学療法の効果が示されているが,その適応・内容については費用対効果の面からも検証する必要がある.直腸癌に対する術前療法についても,化学放射線療法,放射線療法,化学療法,手術単独など様々なアプローチが混在し,いまだ結着を見ていない.Stage IVの治療も長足の進歩を見せている.肝転移についてはより積極的な肝切除が行われるようになり,さらに従来は切除不能と考えられた病変が補助療法によって切除可能となる例(conversion therapy)も多く見受けられるようになった.腹膜転移(播種)例についても腹膜切除と腹腔内温熱化学療法を組み合わせることにより治療成績を向上できる可能性がある.腹腔鏡・ロボット手術などのいわゆる低侵襲手術の一方で,局所高度進展直腸癌や局所再発直腸癌に対する仙骨を含む骨盤壁合併切除を伴う骨盤内臓全摘といった拡大手術による手術適応の拡大・根治性の向上も,補助療法の発展とあいまって今後引き続き追求していくべき課題のひとつである.直腸癌における側方郭清も,補助療法,画像診断,腹腔鏡手術などのさまざまな観点から今後も議論を要する課題である.今後の大腸癌外科治療は集学的治療multidisciplinary approach,個別化(症例選別)といったキーワードを中心に発展していくであろう. |