セッション情報 消化器外科学会特別企画(主題)1(消化器外科学会)

次世代消化器癌診療における外科治療の展望:Part I 消化管,Part II 肝胆膵

タイトル 外企1-4指:

肝臓外科治療の今後の展望

演者 武冨 紹信(北海道大大学院・消化器外科学分野I)
共同演者
抄録 徹底した周術期管理や手術器具の開発に伴い,この30年で肝切除や肝移植の安全性は向上した.さらに内視鏡外科手術が肝臓外科分野にも応用されるようになり,より低侵襲な治療として定着しつつある.さらに本邦でも手術支援ロボットの使用が広まってきているが,繊細で安定した操作性の特徴を活かし,肝臓外科領域での応用が期待される.肝細胞癌(HCC)に対する肝切除後生存率は50%と向上したが再発率は依然として高率のままである.一方,HCCに対する肝移植も標準的な治療法として定着し,ミラノ基準内のHCC症例では5年生存率は70%を達成した.しかし,一旦再発すると肝外への播種性再発が多く認められその予後は不良となる.肝切除や肝移植後の合併症発生も低率になり安全に外科治療が行われるようになってきた今日において,外科治療を最大限有効な治療として活用し治療成績を向上させるためには,補助療法の充実が必須である.近年,より有効な再発予防法確立のため,ソラフェニブを筆頭にHCCをターゲットとした様々な分子標的薬が開発されている.エビデンスレベルの高い臨床研究に肝臓外科医自らが取り組み,外科治療後の再発をより強力に抑える薬物治療の開発を推進していくべきである.さらに次世代シークエンサー等を応用し,より精細な患者および癌の個性を定量化し,手術および周術期治療に活かすオーダーメード型外科治療の確立が期待される.肝移植領域における最大の問題点は慢性的なドナー不足である.2010年に脳死移植法が改正され,家族の同意が得られれば臓器提供が可能になったが,その後も年間脳死肝移植症数は50例程度と増加せず,年間400例程度施行されている生体肝移植が本邦では主流であり世界的に見て偏った状況が続いている.ドナーの安全性や倫理的側面からみても脳死肝移植が主体であるべきであり,今後も脳死肝移植を推進する努力を肝臓外科医が率先して継続する必要がある.それと同時に数少ない提供臓器を効率よく使用するため,マージナルドナーを安全に使用するための技術の開発,さらには再生医療を応用した移植可能な人工肝の開発など,肝移植医療のイノベーションを模索した努力が必要である.
索引用語