セッション情報 消化器外科学会特別企画(主題)1(消化器外科学会)

次世代消化器癌診療における外科治療の展望:Part I 消化管,Part II 肝胆膵

タイトル 外企1-6指:

次世代の外科医に課せられる膵癌治療の方向性

演者 平野 聡(北海道大大学院・消化器外科学分野II)
共同演者
抄録  膵癌は固形癌の中で各種治療に最も抵抗性を有する癌種であり,ここ10年以上の外科治療成績の停滞が課題の大きさを浮き彫りにしている.発症例の多くが遠隔転移や局所過進展を呈し,診断時に切除非対象とされる症例が多いことも外科治療の進歩に大きな妨げとなっている.膵頭部癌における拡大切除の有効性を否定した本邦でのRCTは,手術による膵癌制御がいかに困難であるかを我々外科医に十分なエビデンスとして示してくれた.術前・後の補助療法の開発は全国レベルの試験が進行中であり,また,borderline resectable (BR) という用語が浸透しつつある中,いわゆるsurgery firstのpolicyをどこまで適応するか,すなわちBRとされる症例に対し,今後どれだけ適格な治療法を選択できるかが重要である.膵体部癌においてもBR症例を切除対象とすることができる腹腔動脈合併尾側膵切除術が施設を限定しで行われているが,術前後の補助療法との組み合わせの中で,その有用性評価や適応の絞りこみが行われるべきである. 膵癌治療における外科手術の唯一の効果は局所制御能であり,少なくともR0切除が必須条件であることは論を待たない.その原点に立ち帰ると,これからの膵癌外科治療の役割は一連の集学的治療の中で,この局所制御力を最大限有効に活用する方向を模索する点に尽きると考えられる.今後,治療成績向上のために外科治療に期待されるのは(1)画像検査では発見できない微小転移症例や潜在性の遠隔転移症例を除外し,真のR0手術を施行すること,(2)切除検体の検討から個々の患者ごとに有効な補助療法を選択すること,(3)制癌剤でコントロールされた高度進行症例に対する補助治療としての外科治療を確立すること,などがあげられる.上記の課題に対し教室では,末梢血や門脈血における膵癌細胞の検出および微小肝転移巣の検出の試み,切除検体の遺伝子発現プロファイルから薬剤選択に有用なマーカーの探索,制癌剤著効例の検体を用い,治療効果の判定や切除タイミングを計るためのサロゲートマーカーの探索などを進めている. 手術手技上の課題としては低侵襲手術としての腹腔鏡下膵切除術やRobotic surgeryなどの革新的技術が切除成績にどのように影響するかを評価することも,近い将来の検討事項となるはずである.しかし,その一方で標準的手術におけるR0を確実に行うための手技の確実な伝承や,膵液瘻をはじめとする術後合併症軽減に向けた手技向上のための取り組みが継続的に行われるべきである.
索引用語