抄録 |
新しいがん検診が開発されると,その効果はとても大きいと期待される.しかしランダム化比較試験で示される死亡率減少効果はあっても20%前後のものが多く効果は思ったよりも小さい.たとえ死亡率減少効果の大きさが小さくとも効果が確立されて一般化される際には,同じ検診手法でさえあればよいというものではなく,ランダム化比較試験で得られた中間指標(要精検率・精検受診率・発見率・切除率)を数値目標として行われることにより少なくとも同じ程度の死亡率減少が達成されることを期待する.我が国ではランダム化比較試験を行った実績がないために,このような数値目標もなく様々ながん検診が行われてきた.今までのがん検診の精度管理はこのような目標値がないために,よいのか悪いのかも判断できない状況にあり,一部の意識の高い検診従事者による内部精度管理が中心であった.そもそも精度管理とは,バラツキ(格差)を減らすための行為であるにも関わらず,精度の高い施設は更に上を目指し,精度の低い施設は変わらないため,地域全体でみれば,かえってバラツキ(格差)が開大する方向にあった.厚生労働省「がん検診事業の評価に関する委員会」が平成20年度末に提案した許容値・目標値により府県・市町村・検診機関がどの位置にあるのかを知ることが可能になった.また各府県の生活習慣病検診管理指導協議会が,市町村や検診機関の精度管理指標を公開する動きもみられる.これらの動きは残念ながら自主的な改善を期待するものであり,強制力はない.老人保健法によりがん検診が開始されて数十年がたち,その間ずっと精度不良の市町村・検診機関がこの程度の介入で改善するかどうかは,はなはだ疑問であり,府県が積極的な介入・指導を行っていくことが望まれる.各地でのがん検診の精度のバラツキは解消していくのか?今後の分析を期待したい. |