セッション情報 シンポジウム1(肝臓学会・消化器病学会合同)

B型肝炎ウイルス再活性化の予防・治療の現状と課題

タイトル 肝S1-12追:

炎症性腸疾患患者に対する免疫抑制治療施行例,特にTNF-α阻害薬投与例におけるHBV感染の現状

演者 碓井 真吾(慶應義塾大・消化器内科)
共同演者 海老沼 浩利(慶應義塾大・消化器内科), 齋藤 英胤(慶應義塾大・消化器内科DELIMITER慶應義塾大・薬学部薬物治療学)
抄録 【目的】近年,各種疾患に対して化学療法を含め多彩な免疫抑制治療が行われHBV再活性化をきたす機会が増加している.近年潰瘍性大腸炎に対してもinfliximab(IFX)をはじめとするTNF-α阻害薬が認可され,今後炎症性腸疾患(IBD)患者に対する投与例が増加すると思われる.今回は当院でTNF-α阻害薬が投与されているIBD患者のHBV感染状況を調べ,TNF-α阻害薬投与によるHBV再活性化の現状を調査,今後の対策の必要性の有無を検証した.【方法】当院において2006年から2012年3月までにTNF-α阻害薬で加療されたIBD患者全254例のHBV関連マーカーを調査し,後ろ向きに集計し検討した.【結果】254例中HBs抗原陽性が1例(0.4%),HBs抗原陰性でHBs抗体またはHBc抗体陽性が15例(5.9%)であった.HBV抗原陽性例はIFX投与時に核酸アナログの予防投与を行っておらず,HBVの再活性化を認めたが,核酸アナログの投与にて重症化を認めなかった.HBs抗原陰性かつHBsまたはHBc抗体陽性15例の内訳は,HBsかつHBc抗体陽性4例,HBs抗体のみ陽性9例,HBc抗体のみ陽性2例,男性9例,女性6例,投与開始年齢31歳(中央値),TNF-α阻害薬投与期間3年2ヵ月(中央値),azathioprine / 6-MP併用例8例であった.これらの既往感染パターン症例ではいずれも再活性化を認めていなかった.反対に,HBV関連マーカー陰性例からTNFα阻害薬で加療中にHBVの急性感染を起こし劇症化した1例を経験した.【結論】IBD患者におけるHBV関連マーカー陽性例は,他疾患の報告と比して少ないが,これは若年の患者が多いからと考える.また,潜在性感染者からの再活性化もTNF-α阻害薬投与3年以上の観察で認められなかった.このことからHBV再活性化のリスクは少ないと考えられるが,少ないながらもその対策は必須であり,ワクチン投与等の新規感染への対策が必要と思われる.
索引用語 HBV再活性化, TNF-α阻害薬