セッション情報 シンポジウム3(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

生物学的悪性度評価を加味した肝細胞癌治療戦略

タイトル 消S3-13:

肝細胞癌の分子生物学的特性に着目した個別化医療への展開

演者 濱 直樹(大阪大・消化器外科)
共同演者 永野 浩昭(大阪大・消化器外科), 森 正樹(大阪大・消化器外科)
抄録 近年肝細胞癌の長期生存率は改善したが,依然として残肝再発を高率に来し,また難治性進行肝癌に対する治療成績はいまだ十分とは言えない.これらに対しより個別化された治療戦略を構築する目的で,様々な手法による予後予測などが行われている.当教室では,これまで肝癌切除標本のtranscriptomicsによる術後再発予測や抗癌剤感受性予測などの可能性を模索してきたので,その概要について報告する.(1)再発予測;根治切除後2年以内に早期再発を来した21例と3年以上長期無再発の21例の切除標本を用いて網羅的遺伝子解析を行い,早期再発に関連する172個の遺伝子群を同定した.次にこれらを用いて独立した46症例の肝細胞癌を遺伝子診断した所,早期再発群と診断された26例は有意に予後不良であった.(2)難治性進行肝癌治療;門脈本幹に腫瘍栓を認める(Vp4)局所進行肝細胞癌に対し,切除後の5-FU+IFN-α(FAIT)による術後補助療法が予後改善に寄与することを報告してきた.しかし実際は約60%の症例がFAIT不応であり,これらはFAITでのSurvival Benefitが期待できない.従ってFAITの感受性を事前に予測することは非常に重要である.我々はまずIFN受容体(IFNAR2)に注目し,IFNAR2がFAITによるapoptosisを誘導し,IFNAR2(-)の症例ではFAITの効果を認めないことを見出した.さらにIFNAR2(+)の中にもFAIT不応例があることより,IFNAR2(+)かつFAIT有効例9例と,IFNAR2(+)かつFAIT無効例9例でmicroarrayによる遺伝子解析を行った.その結果に基づくパスウェイ解析ではWnt/β-catenin signalingが関連しており,その中の一つであるEpCAMがFAITの効果と相関していると判明した.これらIFNAR2とEpCAMの発現を組み合わせによりFAIT奏効例を65%の確率で予測可能であった.【結語】肝細胞癌の治療戦略を考えるうえで予後予測や効果判定予測は重要であると考えられ,分子生物学的アプローチは個別化治療に向けて非常に有用であると思われる.
索引用語 肝細胞癌, FAIT