セッション情報 シンポジウム5(消化吸収学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器疾患と栄養代謝ネットワーク-基礎から臨床まで-

タイトル 消S5-5:

絶食-再摂食に対する大腸の応答と発癌への影響

演者 土肥 多惠子(国立国際医療研究センター研究所・肝炎・免疫研究センター消化器疾患研究部)
共同演者 岡田 俊彦(国立国際医療研究センター研究所・肝炎・免疫研究センター消化器疾患研究部)
抄録 食物摂取の状態は,消化管粘膜の形態や機能を大きく変動させる.例えば絶食中は小腸の絨毛が萎縮し粘膜は菲薄となり,消化管も短くなるが,再摂食刺激により,粘膜は急速に肥厚し,形態と消化吸収能が回復する.大腸では小腸ほどの目に見える変化が乏しく,絶食―再摂食応答に関する知見は多くなかった.しかし,現在非常に増加している大腸疾患は,食習慣や腸内細菌叢のタイプに影響を受けることが知られている.そこで我々は,大腸の絶食―再摂食応答について,マウスを用いて,上皮細胞回転,腸内細菌叢の構成,管腔内メタボロミクスという観点から解析を行った.さらに,発癌物質アゾキシメタンを投与し,前癌病変とされる大腸aberrant crypt foci (ACF)の形成を観察する方法で,大腸癌との関連を調べた.その結果,絶食により大腸上皮の細胞回転は完全に停止するが,再摂食後12-24時間で増殖細胞数が定常時の約2-3倍となり,一過性の過増殖を示すことが分かった.大腸内容物のメタボローム解析結果,および抗生剤投与や成分栄養投与,無菌マウス,ノトバイオートマウスを用いた実験から,この大腸上皮細胞の一過性過増殖は,再摂食後にのみ大腸で増殖する常在菌が食物繊維依存性に産生する乳酸に依存していることが明らかとなった.精製した大腸上皮細胞の網羅的遺伝子発現解析を行い,そのパスウェイ解析の結果から,再摂食時の増殖している大腸上皮細胞では脂肪代謝によるエネルギー産生亢進が起こり,細胞の過増殖を支持していることが示唆された.さらに,絶食―再摂食期間中の異なったタイミングに大腸発癌物質への暴露がおこると,前癌病変の発生頻度が大きく変化することが明らかとなった.これらの結果により,腸内細菌叢の構成・宿主の食習慣と代謝の状態・摂食する食物の内容の相互作用が,大腸がん発症に対して,非常に大きな直接的インパクトを持つことが示された.
索引用語 栄養, 大腸