セッション情報 シンポジウム5(消化吸収学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器疾患と栄養代謝ネットワーク-基礎から臨床まで-

タイトル 肝S5-11:

メタボローム・トランスクリプトーム統合的解析によるC型肝炎肝脂肪蓄積の機構解明

演者 杉山 和夫(慶應義塾大・慢性肝疾患治療学)
共同演者 齋藤 英胤(慶應義塾大・消化器内科), 日比 紀文(慶應義塾大・消化器内科)
抄録 【目的】肝臓は代謝ネットワークの中心臓器であり,肝細胞代謝を包括的に理解することは重要である.C型慢性肝炎ではC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染により肝脂肪滴蓄積や耐糖能異常を来す.近年,我々は脂肪滴蓄積を伴うHCV持続感染培養肝細胞(HPI細胞)を樹立した.今回,HPI細胞を用いてメタボロームとトランスクリプトームとの統合的解析を用いてC型肝炎肝脂肪蓄積における肝代謝異常を包括的に分析した.
【方法】HPI細胞と対照の非感染細胞を用いて包括的な質量解析による糖・脂質代謝産物の定量比較を行うとともに,マイクロアレイ解析による代謝遺伝子の転写解析も行った.発現差のあった遺伝子に関しては蛋白質発現も確認した.
【結果】HPI細胞ではコレステロール合成の律速酵素HMG-CoAレダクターゼが転写,蛋白発現ともに亢進し,コレステロールとその前駆物質デスモステロールが増加していた.また,脂肪酸合成の律速酵素アセチルCoAカルボキシラーゼ,および,脂肪酸鎖伸長酵素と不飽和化酵素の発現も亢進し,結果,種々の脂肪酸の著明な増加が起きていた.脂肪酸はトリグリセリドとなり本来VLDLとして放出されるが,HPI細胞ではVLDL形成に関わるミクロゾームトリグリセリド転移蛋白の発現が低下しており脂肪蓄積の一因になっていた.HPI細胞ではペントースリン酸経路の著明な亢進が認められ,その律速酵素(G6PD)の転写,蛋白レベルでの著明な亢進とその代謝産物6ホスホグルコン酸の増加が認められた.この経路で産生されるNADPHはコレステロール・脂肪酸合成に不可欠で,実際HPI細胞でもNADPH増加が認められた.さらにHPI細胞ではTCA回路の代謝産物とATPが増加し高エネルギー状態にあった.
【結論】HPI細胞ではコレステロール合成系,脂肪酸・トリグリセリド合成系,ペントースリン酸系,TCA回路が亢進するとともに,NADPH,ATP産生が増加し過剰エネルギーの蓄積として脂肪滴の異常蓄積が起きていると考えられた.
索引用語 メタボローム, トランスクリプトーム