抄録 |
【目的】膵全摘術後は膵内外分泌能が欠落するため,糖代謝障害,消化吸収障害が必発し,消化酵素剤とインスリンの使用による,厳格な栄養管理を行わなければならない.膵外分泌能欠落による消化吸収障害に対してパンクレアチン成分を含有している消化酵素剤が用いられてきたが,国内で使用されていた消化酵素薬の力価は低く,常用量の3~12倍程度が必要であると報告され,大量服用が行われてきたが,患者の服薬アドヒアランスに影響を与えていた.2011年より国内でも高力価パンクレアチン製剤(パンクレリパーゼ製剤)が発売され使用できるようになった.そこでパンクレリパーゼ製剤内服と従来の消化酵素薬内服との栄養状態,下痢の状態について解析を行った.【対象】2006年8月から2011年4月までに膵癌,IPMNにて膵全摘術を行い明らかな再発がなく消化酵素薬大量内服からパンクレリパーゼ製剤標準内服量に移行した5例を対象とした.【方法】膵全摘術後,消化酵素薬の種類,量および血液所見(血清アルブミン, ヘモグロビン, 血清総コレステロール, Hb A1c),BMI,下痢の有無について比較検討した.【結果】膵全摘例は男性3例,女性2例,年齢が68歳(41-74歳).従来の消化酵素薬の大量服用とパンクレリパーゼ製剤服用ではそれぞれ血清アルブミン 3.90mg/dl, 3.96mg/dl, ヘモグロビン 12.1g/dl, 11.6g/dl,血清総コレステロール 165.8mg/dl, 179.8mg/dl, Hb A1c 7.68%, 7.58% と血液所見に差を認めずBMIにも変化を認めなかった.膵全摘患者においてパンクレリパーゼ内服では常用量内で従来の消化酵素剤の大量内服と同等の効果が得られると考えられた.また大量内服にも関わらず下痢を認めた2例においてはパンクレリパーゼ製剤服用により下痢の改善を認めた.【結論】膵全摘患者においてパンクレリパーゼ内服では常用量内で従来の消化酵素剤の大量内服と同等の効果が得られ,患者の服薬アドヒアランスの改善が期待でき,下痢症状のある患者においては症状改善が期待できた. |