セッション情報 シンポジウム9(消化器病学会・消化器内視鏡学会合同)

高齢化社会におけるNSAIDs消化管障害

タイトル 消S9-10:

低用量アスピリン服用者における小腸潰瘍のリスク因子解析~多施設前向き登録のデータから~

演者 遠藤 宏樹(横浜市立大附属病院・内視鏡センター)
共同演者 酒井 英嗣(横浜市立大附属病院・内視鏡センター), 中島 淳(横浜市立大附属病院・内視鏡センター)
抄録 【目的】高齢化社会を背景にして低用量アスピリン(LDA)の使用は増加しており,これに伴い消化管傷害の増加が問題となっている.これらLDA服用者のマネージメントにリスク因子の同定は非常に重要である.しかしLDA服用者における小腸傷害のリスク因子を検討した報告は全くない.今回我々はLDA常用者における小腸びらん・潰瘍のリスク因子を検討した.【方法】本研究データは,カプセル内視鏡(CE)を用いてLDA常用者における小腸びらん・潰瘍のリスク因子を解析するため,研究参加5施設から前向きに集積されたもので,計156例が登録された.研究参加3カ月以内にNSAIDsの内服歴のある患者は除外した.CE所見は読影医2名によって小腸のびらんと潰瘍の所見が抽出され,それぞれの所見に対して,年齢,性別,BMI,嗜好歴,基礎疾患,アスピリンの剤形・内服期間,併用薬の関与についてロジスティック回帰分析を用いて検討し,リスク因子の同定をした.【成績】CEで全小腸観察できなかった4例を除く計152例(男性104例,平均年齢70.9歳)について解析した.1個以上びらんを認めた患者は94例(61.8%)で,1個以上潰瘍を認めた患者は42例(27.6%)であった.単変量解析では,びらんの有意なリスク因子はチエノビリジン併用(P=0.01)のみであったが,潰瘍のリスク因子はアスピリン腸溶錠(P=0.04)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)併用(P=0.001)であった.多変量解析では,PPI併用のみが潰瘍の独立したリスク因子であった(オッズ比3.48,95%信頼区間 1.50-8.09,P=0.04).【結論】本研究はLDA常用者の小腸傷害のリスク因子を多施設共同の前向き登録データから解析した初の研究である.LDAによる上部消化管傷害の合併症を解決し,保険適応にもなったPPIが小腸傷害を増悪させるという皮肉な結果となった.このPPIのジレンマという臨床上の問題を熟知し,今後高齢化によりさらに増加するであろうLDA服用者の全消化管を対象とした新規対策を検討する必要がある.
索引用語 低用量アスピリン, 小腸