抄録 |
【背景と目的】近年のカプセル内視鏡(VCE)およびダブル・シングルバルーン小腸内視鏡の普及により非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)が高率に小腸傷害を誘発することが明らかとなっている.NSAIDs起因性上部消化管傷害に関しては高年齢が発症危険因子であることが知られているが,NSAIDs起因性小腸傷害に関する年齢の影響については不明である.本研究ではNSAIDs常用関節リウマチ(RA)患者における小腸傷害の発症と高年齢との関連性を,観察的データから無作為比較試験に近い結果を得る統計学的手法であるpropensity-score (PS)マッチング解析を用いて検討した.【方法】当科にてVCEを施行したNSAIDs常用RA患者95例における小腸粘膜欠損をscoring system (0, normal; 1, red spots; 2, 1 to 4 erosions; 3, >4 erosions; and 4, large erosions/ulcers)により評価し各症例を重症粘膜傷害(score 3 or 4)を有する例と有さない(score 0-2)例に郡別した.本研究では65歳以上を高齢者,65歳未満を非高齢者と定義した.飲酒・喫煙歴,消化性潰瘍の既往,NSAIDsの種類(COX非選択的阻害薬 vs COX-2優位/選択的阻害薬)・用量,生物学的製剤,サラゾスルファピリジン,酸分泌抑制剤,ビスホスホネート,メトトレキセート,ステロイドの使用の有無を聴取した.PSマッチング解析によりケース・マッチングを行いselection biasの調整を行った.【結果】PSマッチング解析によりVCEを施行したNSAIDs常用RA患者95例から高齢者38例および非高齢者38例をマッチング・ペアとして選択した.NSAIDs 服用高齢RA患者38例中18例に重症粘膜傷害が観察された.一方,非高齢者群において重症粘膜傷害を有する症例は38例中8例であり,高齢者における重症粘膜傷害有病率は有意に高率であった (p=0.014, OR 4.0, 95% CI, 1.337-11.96).【結論】NSAIDs服用RA患者において高齢であることはNSAIDs起因性小腸傷害の発症危険因子となることが強く示唆された. |