抄録 |
MITの高分子化学者であるLanger とHarvard大学の小児外科医であるVacantiらが提唱したTissue engineeringは, 細胞の足場(Scaffold)材料として生分解性高分子を成形したものを用いて, 足場に細胞を播種させ生体内に移植することで新たな組織を構築する手法である.それに対して我々は足場を用いずに組織を構築する細胞シート工学を提唱してきた. 温度応答性高分子を培養皿表面に共有結合させた特殊な培養を用いることで, 通常培養細胞回収に使用するタンパク分解酵素を用いずに温度を変化させるのみで1枚の細胞シートとして回収することが可能である. この細胞シートは,培養中に培養皿底面に沈着した接着タンパクを含む細胞外マトリックスが維持されており, 様々な組織に移植可能である. 特に消化器系の臓器は細胞成分が豊富であり, 足場を用いない細胞シート工学を用いることで従来のTissue engineeringではできなかった新たな再生医療が可能で, 基礎および臨床研究が活発に進んでいる. その中で, 我々は食道ESD後の広範な人工潰瘍に由来する狭窄に対して再生医療的治療法を開発し, 臨床研究を進めてきた. 食道ESD16日前に患者自己の口腔粘膜を採取し, 温度応答性培養皿で培養して口腔粘膜上皮細胞シートを作製. 食道ESD直後に支持膜を用いて経内視鏡的に細胞シートをESD後の潰瘍面へ移植する方法である. 現在, 長崎大学との共同研究で細胞シート輸送による臨床研究, またスウェーデンのカロリンスカ研究所との共同研究でバレット食道癌の内視鏡治療への細胞シート治療の臨床研究を開始している. |