セッション情報 シンポジウム11(肝臓学会・消化器病学会合同)

NASH肝癌の発がんメカニズム解明と治療への応用

タイトル 肝S11-5:

新規マウスモデルを用いたNASH肝癌におけるTNFαの役割解析

演者 中川 勇人(東京大・消化器内科)
共同演者 小池 和彦(東京大・消化器内科)
抄録 【目的】新規マウス肝癌モデルを用いて,NASH環境下におけるTNFαの腫瘍進展への役割を詳細に解析する.【方法と結果】最近我々は,マウスに化学発癌剤DENを投与した5か月後に,前癌病変からHCC initiating cell (HIC)を,これらの細胞がaggregateする性質を用いて,簡便に単離する方法を見出した(論文投稿中).単離したHICを,自然に肝炎を発症するマウス,MUP-uPAマウスに経脾臓的に肝臓に移植すると定着し,5か月後にHIC由来の肝癌を発症する.このモデルでは炎症による肝癌のpromotionという,ヒト肝癌の最も重要なプロセスを模倣でき,ドナーやレシピエントに異なる遺伝子改変マウスを使用することで,その遺伝子の癌細胞における役割と周囲の肝臓の微小環境における役割を,別々に解析することができる.また興味深いことにMUP-uPAマウスに高脂肪食を与えると,肝細胞のballooning,肝細胞周囲線維化,インスリン抵抗性,TNFα等の炎症性サイトカイン上昇など,NASHに類似した病像を呈した.この環境下に野生型マウス由来のHIC (WT-HIC)を移植すると,通常食時に比べて有意に肝癌が増大し,NASH環境下における肝癌のpromotionを検討するのに適したモデルと考えられた.そこで腫瘍細胞におけるTNFシグナルの役割を解析するため,TNFR1KOマウス由来のHIC (TNFR1KO-HIC)を移植したところ,高脂肪食時の肝癌の増大がみられなかった.WT-HICでは高脂肪食によって,腫瘍部分のERK,STAT3,JNKなどの増殖シグナルが活性化していたのに対し,TNFR1KO-HICでは通常食時と差がなかった.加えてWT-HICでは高脂肪食により腫瘍細胞内のNF-κBが著明に活性化し,腫瘍内での炎症性サイトカイン・ケモカインの発現亢進と炎症細胞浸潤の増加がみられたが,TNFR1KO-HICでは通常食時と同等であった.またTNF阻害剤Enbrelは,高脂肪食による肝癌増大を有意に抑制した.【結論】NASH環境下において,TNFαは腫瘍細胞に直接働いて増殖シグナルを活性化させるとともに,NF-κB活性化を介して腫瘍内の炎症細胞浸潤を惹起し,腫瘍を増大させる.
索引用語 NASH, TNFα