抄録 |
【背景】近年NAFLD, NASHからの肝細胞癌HCCの発生が増加しており,これら病態メカニズムの把握は重要と考える.我々は,肝細胞癌切除凍結検体を質量顕微鏡法にて解析することで,癌部・隣接非癌部ではリン脂質の分布が異なることを明らかにした.今回は,リン脂質の構成成分である脂肪酸を同様の手法を用いて解析した.【対象と方法】当科で施行された肝切除検体18例を対象とした.内訳はウイルス由来HCC(以下VHCC: HCV 5例,HBV5例)10例,非B非C HCC (以下NHCC)5例,正常肝3例.切除後凍結保存した検体を質量分析装置MALDI-TOF/MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)を用い解析し,癌部と隣接非癌部での脂肪酸分布を調べた.【結果】HCC15例(平均年齢69.3±7.0歳,男女比12 : 3)中VHCC,NHCC群間に年齢,性差,腫瘍径,個数,分化度,脈管侵襲,肝機能に有意差なし.同定できた脂肪酸はpalmitate(C16:0),stearate(C18:0),oleate(C18:1),linoleic acid(C18:2, n-6),Arachidonic acid(C20:4, n-6),EPA(C20:5, n-3),DHA(C22:6, n-3)の7種類であった.このうちNHCC群癌部において非癌部に比べ,C18:0が有意に上昇し,C16:0は低下傾向であった.C18:0/C16:0はNHCC群で有意に上昇し,C16:0からC18:0へ炭素数を伸長するElovl6 (elongation of very long chain 6) 蛋白発現がNHCC群癌部で上昇していることがWestern blotにより確認された.【考察,結語】近年Elovl6発現上昇がNLRP3 inflammasomeを介した炎症反応をもたらしNASH進行に関与するという報告がある.また飽和脂肪酸がER stressの要因となることは古くから報告されている.非B非C肝細胞癌においてElovl6上昇がもたらすC16:0の低下とC18:0の増加が,その生存環境に影響を与えている可能性が示唆された. |