抄録 |
【緒言】我々は現在までに腹腔鏡下膵切除術を153例に施行しその有益性について報告してきた.今回本術式の標準化に向けた手術手技の工夫点とその中長期的な成績を基に,膵癌に対する本術式の現状と展望について考察した.【対象】術式別の内訳は,膵体尾部切除(Lap-DP)106例,膵頭十二指腸切除(Lap-PD)43例,核出術4例であった.153例中膵悪性腫瘍症例は38例存在し,Lap-PDを13例に,Lap-DPを25例に施行した.その内膵癌症例は28(女性16)例で,平均年齢は67(29-88)歳であった.TNM病期分類にてstage 0:3例,stage1A:5例,stage1b:2例,stage2A:8例,stage2B:9例,stage4:1例であった.膵癌以外の膵悪性腫瘍10例の内訳は転移性腫瘍5例,NEC4例,その他1例であった.【手術手技】膵癌に対する術式の工夫に関し,増幅された視覚情報に基づく繊細なリンパ節郭清操作と共に,Lap-PDにおいてはlaparoscopic left mesenteric approachによる膵頭神経叢の郭清手技を確立し,また腹膜播種の原因となり得る術中の膵液飛散を軽減する為に膵臓を自動縫合器で切離し切離断端を閉鎖している.Lap-DPでは副腎摘除を含めた後腹膜組織の郭清手技を,左肋弓が術野にかかってしまう開腹術よりも確実に術野を展開しながら行っていく事が可能である.【結果】郭清リンパ節の個数は平均で22.4±12.6(6-57)個であり,リンパ節転移は8例(29%)に認められた.また24例にR0 resectionが施行された(86%).平均観察期間は16か月(range1-72か月)であった.死亡例は28例中6例〈2.5M (stage4), 15M (stage1A), 29M (stage2B), 33M (stage2B), 24M (stage2A), 18M (stage2B)〉に認められた.Stage1A以上の症例には術後にも補助化学療法を施行し,生存例の22例は全例無再発生存例である.【結語】現時点における我々の中長期成績は開腹術との非劣性を示唆するものと考えられるが,今後も症例を積み重ね化学療法を含めたフォローアップを真摯に継続していく姿勢が重要である. |