セッション情報 シンポジウム13(消化器外科学会)

肝胆膵外科領域におけるロボット・腹腔鏡下手術の現状と課題

タイトル 外S13-9:

肝腫瘍に対する低侵襲性手術―腹腔鏡下肝切除の導入がもたらしたもの,そして学んだもの

演者 大塚 由一郎(東邦大医療センター大森病院・消化器センター外科)
共同演者 土屋 勝(東邦大医療センター大森病院・消化器センター外科), 金子 弘真(東邦大医療センター大森病院・消化器センター外科)
抄録 【諸言】当科ではかねてより腹腔鏡下肝切除術(LLR)を導入し,開腹術に比べ低侵襲であるが長期成績は劣らないことを報告し,適応拡大を試み,症例を蓄積してきた.【方法】これまで施行したLLRを3群;初期群,中期群 ,後期群 (各n=67)に分け背景・術式・成績・課題について検討した.【成績】初期群では好適応とされる肝下領域での切除や外側区域切除が主であったが,後期群では肝上領域(S7,S8,S4a)での切除,外側区域切除を除く系統的肝切除,腹部手術既往例の割合が有意(p<0.01)に増加し,多病変切除,併存疾患を有することの多い高齢者(75歳以上)や再肝切除例の割合も多い傾向にあった.適応拡大にもかかわらず,群間での合併症発生率に変化はなく,術後在院期間は短縮傾向であった.またHALSやHybridも用いて積極的適応拡大を試みた中期群に比し,後期群では完全鏡視下手技が有意に増加し,拡大・尾側視によって系統切除での肝門処理や授動における脈管の認識は開腹術に比べてむしろ良好であることがわかった.一方で経肋間や心窩部最上トラカール挿入,細径スコープ使用などは動作制限の克服に有用で,肝静脈根部への先行アプローチも可能であった.全肝切除例におけるLLRの割合は当初2割程度であったが,完全腹腔鏡下肝葉切除が可能になった2007年以降は約7割と変化した.これに伴い若手外科医のLLRへの参加頻度も増し,指導者クラスの“特別な”手術であったLLRは,好適応例では“スタンダード”として若手に回り,適応拡大例での困難は経験値を共有した.【結論】症例の蓄積により肝腫瘍に対する鏡視下手術の役割は確実に増した.適応拡大症例では手術時間が長い傾向にあり,頭背側領域での系統切除や,大きな脈管・他臓器への侵襲例などではなおも課題が残る.しかし技術面は手術器具の改良とともに常に進歩しており,今後のさらなる工夫により克服しうると考える.
索引用語 鏡視下手術, 肝腫瘍