抄録 |
【目的】下部直腸がんに対する永久的人工肛門を回避する手術として内肛門括約筋切除術(ISR)が普及しつつあるが切除後の再建方法に関しては現在のところ一定の見解はない.今回はISR術後の排便機能を再建方法別に比較検討した.【対象・方法】2010年12月までにISR (Cur A,B)を施行された164例を対象. (1)排便機能はKirwan分類,Wexnerスコア,m-FIQL,直腸肛門機能検査(機能的肛門管長,静止圧,随意圧,直腸感覚閾値,直腸最大耐容量,肛門粘膜電流感覚閾値(AMES))にて評価.(2)再建方法別(J-pouch群(J群)とStraight群(S群))での排便機能を比較.(3)術後短期(1年以内)および長期(1年以降)での排便機能障害の因子を検討.【結果】(1)患者概要:Total-ISR 26例,Subtotal-ISR 30例,Partial-ISR 108例で,再建方法はJ-pouch(J群) 132例,Coloplasty 7例,Straight(S群) 25例であった. (2)排便機能:排便回数は短期・長期で平均4.4・3.6回/日.Kirwan分類ではgood continence(Grade1,2)が短期・長期で54%・74%,poor continence(Grade3,4)が短期・長期で46%,26%で,stomaの適応となるGrade5は認めず経時的に改善がみられた. Kirwan分類とWexnerスコア・m-FIQLは相関を認めた.直腸肛門機能検査は経時的計測で内圧とAMESは改善を認めた.(3)再建方法別排便機能の比較:S群と比較しJ群は有意に排便回数が少なく,長期でgood continenceが多く,静止圧が高く,直腸最大耐容量が大きかった.(4)排便機能障害因子(多変量解析):短期では随意圧のみが因子,長期では再建術式(S群)のみがリスク因子として選択された.【考察】ISR術後の排便機能障害は,排便のQOL(m-FIQL)とも相関し経時的変化で改善が認められた. またJ-pouch再建はStraight再建と比較し排便回数を減らし,直腸最大耐容量を増加させることによりISR術後の排便機能を改善させる可能性があるのではないかと考えられた. |