セッション情報 シンポジウム15(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

消化器癌に対する分子標的薬-最近の動向

タイトル 消S15-3指:

肝細胞癌に対する分子標的治療:現状と問題点

演者 工藤 正俊(近畿大・消化器内科)
共同演者 上嶋 一臣(近畿大・消化器内科)
抄録 ソラフェニブが臨床導入されて4年が経過した.進行肝細胞癌治療においてbreakthroughとなり,多くの患者がその恩恵を受けることとなった.一方で,さまざまな問題も浮上してきている.ソラフェニブに代わる新規分子標的薬,あるいは不応,不耐例に対するセカンドラインとしての新規分子標的薬の開発もさることながら,ソラフェニブ治療自体の問題点も解決しなければならない.1)バイオマーカー:ソラフェニブに代表されるマルチキナーゼ阻害剤におけるバイオマーカーは,そのターゲット分子が多様なことから,単一分子を標的とした分子標的薬,たとえばハーセプチンにおけるHER2 statusのように決定的なバイオマーカーを見出すことが難しいが,われわれは全国の著効症例の組織を集積して解析した結果,著効例においてFGF3/FGF4の発現が有意に高いことを見出している.またソラフェニブ無効群においてMAPKの一つであるJNK活性が有意に高いことを見出している.これらはいずれも治療効果および予後予測バイオマーカーとして有用である.肝細胞癌の特異的腫瘍マーカーであるPIVKA-IIに関しては,ソラフェニブの虚血効果を反映して上昇することが知られており,治療効果をモニタリングするための治療効果バイオマーカーとなりえる.また,血中VEGFの推移に関しても同様に治療効果バイオマーカーとしての可能性が報告されている.2)治療効果判定:HCCにおいては,局所療法の治療効果判定にRECIST1.1が不向きであるため,RECICLが使用されている.一方,血管新生抑制作用をもつソラフェニブの効果判定においては,その特異的な変化を反映するためにmodified RECISTが提唱されている.いずれの基準もHCCの予後を推測するにあたっては有用であるが,問題点も多い.3)標準治療との併用:より有効な使用方法として標準治療との組み合わせがある.現在,根治後補助療法,TACE後補助療法,動注との併用療法などの臨床試験が進行しており,その結果が待たれている.ソラフェニブに代わる新たな分子標的薬は,本文を執筆している6月現在,いまだ登場していない.開発治験の進行具合から当面新薬の登場は期待できない.したがって,現状で使用可能なソラフェニブの有効な投与方法を模索し,追求することが重要である.
索引用語 分子標的薬, ソラフェニブ