抄録 |
【目的】2012年抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインで消化管出血等の緊急内視鏡には適用しないとされ,その際は個々の医師の判断で抗血栓薬の休薬と再開が決定されている.そこで内視鏡的止血術を行った非静脈瘤性上部消化管出血例における,抗血栓薬の止血治療への影響,休薬による血栓塞栓症発症について検討した.【方法】2007年1月~2012年12月に,内視鏡的止血術を行った非静脈瘤性上部消化管出血患者333例を対象とし,抗血栓薬を内服していた95例(内服群),抗血栓薬を内服していなかった238例(非内服群)を比較検討.さらに内服群で,抗血栓薬内服内訳,抗血栓薬休薬期間,血栓塞栓症発症について検討.【成績】平均年齢内服群77歳,非内服群68.5歳,内服群の年齢が高かった.原因疾患は消化性潰瘍,止血方法はHSE+クリップ法が両群とも最も多かった.再出血例内服群1例(1.1%)非内服群13例(5.5%),内視鏡的止血困難例内服群1例(1.1%)非内服群5例(2.1%),いずれも両群で有意差はなかった.血栓塞栓症発症は内服群4例(4.2%)非内服群1例(0.4%)であり,内服群に多かった(p<0.05).内服群の内服薬内訳は低用量アスピリン65例,ワルファリン17例,その他抗血栓薬48例,複数内服33例.抗血栓薬休薬期間は平均16日(0~71日).血栓塞栓症発症時期は,3例が投与中止2日後,1例が25日後で,3例は脳梗塞,1例は心筋梗塞を発症.【結論】内服群と非内服群で再出血率,止血困難率に有意差はなく,抗血栓薬内服が止血率に影響していない可能性が示唆された.しかし抗血栓薬休薬平均期間が16日であり,これが再出血率に関与している可能性も考えられた.血栓塞栓症発症時期は抗血栓薬中止後早期に多く,緊急内視鏡時でも血栓塞栓症を少なくするためには抗血栓薬休薬を最小限にする必要があると考えられた. |