抄録 |
【背景】法改正後の脳死ドナーの増加は,待機リスト最上位の劇症肝炎患者の転帰に大きな影響を及ぼしたと考えられる.本検討では法改正2年後の劇症肝炎患者に対する脳死肝移植の現状を検討した.【方法】対象は1997年10月から2012年8月末までにレシピエント候補として登録された18歳以上の劇症肝炎患者174例.日本脳死肝移植適応評価委員会事務局に記録された臨床情報と臓器移植ネットワークに登録された転帰を用いて,待機生存率,脳死肝移植施行および早期死亡に関与する因子,転帰について検討を行った.【結果】2012年8月末までに登録された18歳以上のレシピエント候補患者は1515例であり,そのうち劇症肝炎患者は174例,12%を占めていた.Kaplan-Meier法で累積生存率を算出したところ,待機生存期間の中央値は30日であり,登録後10日での死亡率は22.7%であった.脳死肝移植に寄与する要因をロジスティック回帰分析で検討したところ,登録時期すなわち法改正前か後かのみが有意な要因であった(OR4.15, P=0.02).累積脳死肝移植施行率は,法改正前は登録後7日,14日,28日でそれぞれ3.6%,3.7%,5.5%であったが,法改正後はそれぞれ19.6%,39.3%,58.0%であった.すなわち法改正後は登録後10日で約25%の症例で脳死肝移植が施行されていた.最終転帰における脳死肝移植実施の割合は,法改正前後で7.3%から25.6%に増加した.また待機死亡の割合は62.9%から30.5%に減少した.登録後10日以内の早期死亡に関連する要因として,D/T比のみが有意な要因として抽出された.D/T≦0.58の症例はD/T>0.58の症例と比較して約10倍の早期死亡リスクを有することが明らかとなった.【結語】法改正により劇症肝炎患者に対する脳死移植施行率は改善し,登録後10日で約25%の症例に移植が施行された.また,これに伴い待機死亡の割合も半減した.このように,脳死肝移植は現実的な治療選択肢のひとつになりつつあるが,D/T比の低下を伴う症例では待機時間を確保できない可能性が高く,早急な生体肝移植が必要と考えられる. |