セッション情報 シンポジウム21(消化器内視鏡学会・消化器病学会合同)

Colitic cancer を克服する

タイトル 内S21-8:

クローン病患者に伴う下部消化管癌の臨床的検討と危険因子

演者 矢野 豊(福岡大筑紫病院・消化器内科)
共同演者 平井 郁仁(福岡大筑紫病院・消化器内科), 松井 敏幸(福岡大筑紫病院・消化器内科)
抄録 【背景】クローン病(以下CD)長期経過例の増加に伴い,本邦でもCDに伴う腸癌が増加しており,最近本邦においても腸癌発生のリスクは欧米と同様に高いことが報告されるようになった.しかし,多数例での検討は少ない.【目的】当科におけるCD患者に伴う下部消化管癌の臨床的特徴と危険因子を検討すること.【対象】1985年7月から2013年2月までの間に当科にて治療歴のあるCD患者902例を対象とし,そのうち下部消化管癌を合併した16例(1.8%)を(C群)と腸癌を合併しなかった群(N群)とに分類し臨床的特徴と危険因子を分析した.【結果】C群16例(男性7例,女性9例)の内訳は,小腸癌2例,痔瘻・肛門管癌9例,直腸癌4例,回腸S状結腸瘻孔癌1例であった.CDの発症年齢は平均24.4歳(15-45歳),癌診断年齢は平均44.6歳(30-64歳)であった.CD発症から癌発見までの平均罹病期間は20.3年(6-36年)であった. C群はN群に比べ,発症10年以上,小腸大腸型,瘻孔型,肛門病変あり,腸管手術歴ありが有意な腸癌のリスクであった.一方,生物学的製剤等の治療は有意差がなかった.癌発見契機は疼痛7例,下血・出血4例,無症状で大腸内視鏡検査を行い積極的に生検し発見した4例,難治性痔瘻に対し麻酔下にて生検を行い発見した4例であった.組織型は粘液癌11例(69%)であった.内視鏡で積極的に生検を行い発見した4例はStage II以下で明らかな遠隔転移は認めなかった.死亡例は8例(1例は他病死)で,予後は平均14.5ヶ月ときわめて不良であった.【結論】CDに合併する下部消化管癌は若年発症であり,多くはCDに10年以上の長期にわたって罹患していた.以前はすでに進行癌の状態で発見されることが多かったが,近年ではリスクの高い患者に対し積極的な生検を行い比較的早いStageで発見される症例も増えてきた.生物学的製剤等の内科治療を強力に行い持続的な炎症を抑えることで癌の発生リスクを低下させる可能性はあるが,現在のところ明らかなエビデンスはない.現時点では長期罹患や肛門病変を有する等の高リスク群は癌を念頭に置いた検査や生検を積極的に行う必要がある.
索引用語 クローン病, 癌