セッション情報 パネルディスカッション1(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

C型肝炎を背景とした肝細胞癌-予防から再発治療まで

タイトル 肝PD1-2:

C型肝炎における発癌リスクを評価する新規バイオマーカーAKR1B10

演者 佐藤 俊輔(順天堂大静岡病院・消化器内科)
共同演者 玄田 拓哉(順天堂大静岡病院・消化器内科), 市田 隆文(順天堂大静岡病院・消化器内科)
抄録 【目的】アルドケト還元酵素AKR1B10は,従来肝癌での発現亢進が報告されてきた分子である.しかし近年我々はC型慢性肝炎や肝硬変の一部の症例でAKR1B10発現が認められ,肝発癌リスクを反映する可能性を報告してきた(Liver Int 2012).今回多数例を用いてAKR1B10発現の肝発癌リスクを評価した.
【方法】当院で肝生検を行い,なおかつ1年以上経過観察しえたC型慢性肝炎338症例を後方視的に検討した.年齢,性別,BMI,飲酒歴,HCV遺伝子型,ウイルス量,AST値,ALT値,GGTP値,AFP値,血小板数,組織学的所見,インターフェロン治療歴,ウイルス排除の有無および肝内AKR1B10発現の各因子と,肝発癌との関連をCox比例ハザードモデルおよびカプランマイヤー法で解析した.肝内AKR1B10発現は免疫染色で評価し,陽性面積率を画像解析ソフトで定量化した.
【結果】AKR1B10は,正常肝では発現が認められないが,338例のC型慢性肝炎患者中158例(47%)で発現が認められた.平均観察期間3.2年で,338例中28例(8.3%)に発癌を認めた.単変量解析では,年齢,AST値,血小板数,組織学的所見(線維化・壊死炎症所見),ウイルス排除の有無および肝内AKR1B10の発現が発癌との関連性を認めた.多変量解析では,血小板数≦13万/μL(HR 2.697, P=0.021),AFP値≧8ng/mL(HR 3.441, P=0.039),AKR1B10≧6%(HR 3.975, P=0.008)が独立したリスク因子であった.5年累積発癌率はAKR1B10高発現群の19.8%に対し,低発現群では2.1%であった(P<0.001).AKR1B10のHRは,各種背景因子,特に組織学的肝線維化やSVRの有無などで層別化しても有意であった.特にSVR例や肝線維化非進行例など,これまでは低リスク例と考えられていた群ではAKR1B10発現亢進が10倍以上の高いHRを示し,過去に報告されてきた因子とは別のリスク因子となり得ると考えられた.
【結論】AKR1B10発現は,過去に報告された危険因子とは独立したリスク要因であり,AKR1B10発現を基にしてC型肝炎患者から肝癌高危険群の精緻な囲い込みが可能と考えられる.
索引用語 AKR1B10, 肝発癌