抄録 |
【目的】肝癌治療後の再発は患者予後を不良にする要因であり再発予防法の確立はC型肝炎患者の予後改善に向けた重要な課題である.一方,C型肝炎ウイルスはインスリン抵抗性(IR)を誘発することや,血管内皮増殖因子(VEGF)を誘導して血管新生を促進することが報告されている.分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤はIR改善およびVEGF抑制作用を有すると共に,IRを伴いやすいBMI25以上の肝硬変患者において累積肝発癌率を減少させることが報告されている.今回我々はBCAAの肝癌再発抑制効果についてIR,血管新生との関連のもとに検討すると共に,肝癌再発を予測する上での血清可溶性VEGF Receptor 2(sVEGFR2)の有用性について検討した.【方法】ラジオ波焼灼療法などで内科的に治療し各種画像診断にて根治し得たと判断したHCV肝癌患者56例を対象とした.IRと診断された患者にBCAA(Livact:12g)を連日投与し累積肝癌再発率について対照群(非投与群)と比較検討した.またBCAA投与群については日本糖尿病学会の基準に基づきHOMA-IR,空腹時血糖(FBS),空腹時インスリン値(IRI)別に層別解析を行った.さらに肝癌治療後のVEGF,sVEGFR2の変化を臨床効果と対比検討した.【結果】肝癌治療後5年までの観察においてBCAA投与群のうちHOMA-IR≧2.5の患者,血清IRI≧15μU/mLの患者では対照群より肝癌再発がそれぞれ有意に抑制されていた.一方,FBSに関してはFBS≧110およびFBS<110いずれの群においても対照群との間に肝癌再発率に有意差を認めなかった.BCAA投与群において再発の有無別にVEGFおよびsVEGFR2の変化を検討したところ,非再発群においてのみこれらの有意な低下(VEGFは投与開始6ヶ月後,sVEGFR2は投与開始3ヶ月後)が認められた.【結論】HOMA-IR≧2.5および血清IRI≧15μU/mLの患者においてはBCAAによる治療介入が肝癌再発予防に有用である可能性がある.また血清sVEGFR2はBCAAの肝癌再発抑制効果の有用なマーカーになり得る可能性が示唆された. |