抄録 |
【目的】 原発性胆汁性肝硬変(PBC)の特殊な病態として,自己免疫性肝炎(AIH)の病態を併せ持つ,PBC-AIH overlap症候群が存在し,その診断に苦慮する例が少なくない. また近年,自己免疫性肝疾患における門脈域浸潤形質細胞のIgG,IgMの免疫組織染色(免染)が診断に有用と報告されている. 今回我々は,自験例の自己免疫性肝疾患におけるこれら免染を行い検討した【対象と方法】当科で診断されたAIH 14例,PBC 14例,overlap 5例を対象とした. 診断時の肝生検組織を用い,PBC,overlapの肝炎性変化(HA)には中沼分類を用いた. さらに,抗ヒトIgG抗体,抗ヒトIgM抗体,形質細胞に特異的な抗ヒトCD138抗体による免染を行い,強拡大視野でCD138陽性細胞浸潤する門脈域を抽出し,IgG,IgM陽性細胞数を数えて検討した. なお,overlapの診断はParis criteriaを用いた【結果】患者背景(AIH / PBC / overlap)は,平均年齢59.4 / 53.9 / 51.4歳,男女比3:11 / 4:10 / 2:3,診断時臨床検査: ALT 646.7±568.6 / 78.6±41.9 / 985.6±1324.8 IU/L,ALP 376.2±134.2 / 558.2±328.7 / 440.2±32.0 IU/L,IgG 2646±793.0 / 2108±656.2 / 2767±885.5 mg/dL,IgM 201±91.2 / 741±311.3 / 628±334.3 mg/dL. 肝組織像は,AIHは全例でinterface hepatitisと門脈域の炎症細胞浸潤を認めた. PBCのHAは,HA0 ; 28.6%,HA1 ; 35.7%,HA2 ; 28.6%,HA3 ; 7.1%,overlapのHAは,HA0 ; 0%,HA1 ; 20%,HA2 ; 60%,HA3 ; 20%であった.免染における強拡大視野でのIgG陽性細胞およびIgM陽性細胞浸潤の分布は,AIHではIgG優位10例(71.4%),IgM優位0例,同等4例(28.6%),PBCではIgG優位0例,IgM優位1例(7.1%),同等13例(92.9%),overlapではIgG優位1例(20%),IgM優位0例,同等4例(80%)であった. また,overlapでIgG優位例は,中沼分類のHA3であった. IgM/IgG比は,PBCがAIH,overlapと比較して有意に高値であった(0.2 / 2.0 / 0.3 , p<0.005)【結語】自己免疫性肝疾患における門脈域浸潤形質細胞のIgG,IgMの免染パターンは疾患によって異なっていることが示唆された |