抄録 |
【目的】生活習慣や食事の影響によってわが国でも疾患構造が急速に変化しつつある.中でもアレルギー性疾患やバレット食道を含むGERDの増加は象徴的である.アレルギー性疾患では,Th2優位であることがよく知られているが,このような生体の変化が食道疾患にも変化を及ぼしている可能性はないだろうか?これまでTh2サイトカインが食道上皮の分化や化性にどのように関わるかは,全く検討されていない.そこで我々は,Th2サイトカインがヒト食道扁平上皮層形成にどう影響するかを検討した.【方法】ヒト正常食道上皮細胞を用いて,air liquid interface法を用いて培養し,扁平上皮細胞層をin vitroで作製し,Th2サイトカイン(IL-4)あるいはTh1サイトカイン(TNF-α, IL-1β)を基底側から刺激し,細胞層の形態変化(HE染色)と増殖能(Ki-67染色)を評価した.扁平上皮マーカー(involucrin, keratin13),円柱上皮マーカー(keartin7, 8)とバレット食道に関わる腸上皮マーカー(CDX-2,MUC2)のmRNAと蛋白レベルで検討した.JAK阻害薬(JAK inhibitor I),PI3K阻害薬(Wortmannin, LY294002),MEK阻害薬(PD98059),p38 MAPK阻害薬(SB203580), JNK阻害薬 (JNK inhibitor II)はIL-4刺激前に投与した.【成績】IL-4刺激により,扁平上皮層は有意に肥厚したが,Ki-67染色は基底層一層に限局していた.TNF-αとIL-1βは,扁平上皮層の形成に影響を与えなかった.IL-4によりinvolucrinとkeratin 13の発現はmRNAと蛋白レベルで有意に減少し,keratin 7と8は有意に増加した.IL-4はCDX-2やMUC2の発現を誘導しなかった.JAK inhibitor I,WortmanninとLY294002によりIL-4によるkeratin13の低下とkeartin8の上昇は,有意に抑制された.PD98059,JNK inhibitor IIあるいはSB203580はIL-4によるkeratin13の低下とkeartin8の上昇に影響を与えなかった.【結論】食道扁平上皮細胞層では,IL-4がJAK/PI3K経路を介して円柱上皮化成を惹起し,バレット食道発生の初期にかかわっている可能性が考えられた. |