セッション情報 パネルディスカッション11(消化器外科学会・消化器病学会合同)

進行胃癌に対する集学的治療の標準化に向けて

タイトル PD11-基調講演1:

切除可能進行胃癌に対する集学的治療:世界の動向

演者 佐野 武(がん研有明病院・消化器外科)
共同演者
抄録 切除可能な進行胃癌に対する術前・術後の補助療法の有効性が示されたのは,まだ今世紀になってからである.米国における術後補助化学放射線療法(INT0116試験),欧州における術前・術後3剤併用化学療法(MAGIC試験),本邦における術後補助単剤化学療法(ACTS-GC試験)により,それぞれの地域で標準治療が確立された.以来,これらの治療法を対照として多くの臨床試験が計画・遂行され,新しい知見が集積されつつある.欧米の上記2試験は,対象となる患者と胃癌病期が類似していることもあり,互いにそのモダリティーを取り入れて診療に活かすか,これらをミックスした治療法の開発が行われている.一方,本邦のStage II,III患者における手術単独の予後は欧米に比べて格段に勝っており,彼らの(毒性の強い)治療を本邦へ簡単に取り入れるわけにはいかず,慎重に臨床研究が進められている.
手術のみで70%以上の5生率が期待できるStage IIのような対象では,補助療法はなるべく毒性が低くQOLを妨げないものが望ましい.一方,手術だけでは30%以下の生存しか望めないような対象に対しては,補助療法をいかに効率的に行うかがポイントとなる.欧米の胃癌はほとんど後者の部類に入るので,強力な化学療法を十分な薬剤強度で使うために,多剤併用の術前化学(放射線)療法へとシフトする傾向が見られる.本邦でも,スキルス胃癌や高度リンパ節転移例など,切除可能であっても予後は不良という症例に対して術前化学療法の臨床試験が行われている.さらに,近年の化学(放射線)療法は組織学的完全寛解も一定の割合で見られるほど有効となっているので,切除不能とされる胃癌の一部でも治癒切除へのconversionが期待できるようになってきた.ただし,胃癌に特有の腹膜播種病変に対してはまだ治療成績は極めて不良である.
今後は,腫瘍の生物学的特性に応じた分子標的薬治療に期待が集まるが,胃癌は腫瘍のheterogeneityが高く,生存期間の延長を期待できるものは非常に限られていて,個別化治療への道のりはまだ遠い.当分,よく計画された臨床試験を積み重ねて行かざるを得ないであろう.
索引用語