抄録 |
【はじめに】脈管侵襲を伴った進行肝癌は,たとえ根治肝切除を施行したとしても早期に再発を来たし予後不良である.教室では,門脈本幹から一次分枝に腫瘍栓(Vp3-4)を伴った高度進行肝癌に対して,肝切除とIFN併用化学療法(FAIT)を基軸とした集学的治療を行ってきた.そこで,脈管侵襲陽性の局所進行肝癌の治療成績について検討するとともにFAITを基軸とした集学的治療の有効性および効果予測因子について検討した.【対象と方法】教室にて肝切除術を施行した肝細胞癌931例中,肉眼的脈管侵襲(Vp/Vv)陽性の肝細胞癌178例を対象とし,臨床病理学的因子,生存率,FAITの有効性,その効果予測因子について解析した.【結果】178例の背景因子は,男女比159/19,平均年齢64.3歳,Child A/B: 144/34,肝硬変合併が85例(47.8%)であった.高度脈管侵襲116例(Vp3-4:102例,Vv3: 21例,[うち重複: 7例]),腫瘍遺残のない肝切除を124例(69.7%)に施行.全生存率に関する多変量解析では,肉眼的治癒切除,Child Aが独立予後因子であった.肉眼的治癒切除を施行した124例では,術後FAIT非施行の91例のうち,高度脈管侵襲群38例の1/3/5年生存率は,63.9/26.6/8.9%とVp1-2/Vv1-2症例53例の67.9/49.1/25.2%より不良.一方,術後FAITを施行した高度脈管侵襲群31例の1/3/5年生存率は,100/78.3/55.9%と極めて良好であった(p<0.05).減量肝切除後にFAITを施行した30例では,奏効率は33%(CR 6例,PR 4例).CR/PR症例の1年/3年生存率は100%/58%と,SD/PD症例(10%/0%)に比較して有意に良好.この30例を対象として,分子生物学的手法を用いて効果予測因子を検討した結果,IFNAR2,EpCAM,IGFBP7の発現により,FAITの治療効果を予測することが可能であった.【結語】高度脈管侵襲を伴った局所進行肝癌に対しては,腫瘍遺残のない肝切除が可能な症例では積極的に切除を行ない,術後FAITを併用することで予後の改善が見込まれる.また,分子マーカー発現を評価することで,FAIT治療効果を予測可能であり,テーラーメイド治療構築の一助となる. |