セッション情報 ワークショップ2(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

急性肝不全の予後改善に向けた病態理解と治療の進歩

タイトル 肝W2-8指:

人工肝補助療法と原病治療からみた急性肝不全の病態理解

演者 井上 和明(昭和大藤が丘病院・消化器内科)
共同演者 与芝 真彰(せんぽ東京高輪病院)
抄録 目的
劇症肝炎の治療は人工肝補助と原病治療から成り立つ.前者は患者を覚醒させ肝不全期間を乗り切るのに必須の対症療法である. 我々は1986年より血漿交換に血液濾過透析を併用した人工肝補助を開発し,2004年からより効率の良いonline HDFを併用している. 原病治療としては肝細胞破壊を早期に停止させる目的でステロイドパルスとその漸減シクロスポリンの持続点滴,病態に応じてインターフェロン,エンテカビルの投与も行っている. 今回はこれらの治療に対する反応性を解析して,劇症肝炎の病態の解明の手がかりを掴みたいと考えて検討を行った.
対象と方法
対象は2004年以降昭和大学藤が丘病院に入院して人工肝補助療法を含む集中治療の対象となった急性肝不全(acute on chronic10例を除く)65例である. 人工肝補助療法は脳症が出現した場合に速やかに開始した. またほぼ全例に肝細胞破壊を停止させる目的でステロイドパルスとその漸減を行った. またステロイドパルスの反応を見てシクロスポリンの持続静注も行った. 免疫抑制療法への反応性と肝細胞破壊に対するウイルス増殖が関与の2点を考慮し,インターフェロンの投与も行った. またHBVキャリアの急性増悪の場合はエンテカビルを投与した.これらの症例を対象に昏睡覚醒率,覚醒までの人工肝補助の回数,ALTの低下スピードを全例で検討し,さらに一部の症例では血液および持続的に解析した透析濾液から物質の除去効率とサイトカインの profileの変化について解析を行った.
結果
65例中46例が生存し19例が死亡した. 昏睡からは覚醒率,昏睡覚醒までの血液浄化の回数は生存群で少ない傾向が見られた. ALT低下のスピードも生存群でより速い傾向が認められた. 体内分布の大きいグルタミンも緩衝液の量を増加させれば細胞内からの除去が可能であり,体内分布小さな胆汁酸は短時間で感度以下まで除去された. サイトカインは無差別に大量に除去が可能であった.肝炎の鎮静化とサイトカインprofileに一定の傾向が見られた.
結論
血液浄化と原病治療が有効に作動すれば液性環境,炎症ともに改善する. 個々の免疫応答を詳細に解析して,新たな治療の開発につなげたい.
索引用語 人工肝補助, 原病治療