セッション情報 ワークショップ2(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

急性肝不全の予後改善に向けた病態理解と治療の進歩

タイトル 肝W2-12:

急性肝不全における肝細胞死のメカニズムの視点から捉えた類型化と治療応用

演者 古藤 和浩(九州大・病態制御内科)
共同演者 加藤 正樹(九州大・病態制御内科), 高柳 涼一(九州大・病態制御内科)
抄録 【目的】急性肝不全は多様な経過をとり,疾患概念としては症候群とみなされる.肝内網内系の異常活性化が,急性肝不全の発症に関与しているのではないかとの提唱がなされてきたが,その詳細は未解明である.我々は,当科で経験した急性肝不全患者の経過を解析し,肝細胞死のメカニズムの観点から急性肝不全を類型化することを試みた.【方法】対象は,過去10年間に当科に入院した急性肝不全患者のうち,入院時に急性肝不全の基準を満たしていた者140名(昏睡型47名,非昏睡型93名).大循環障害に起因する症例は除外した.【結果】(1)ferritinの著増は,網内系の異常活性化を反映していると考えられるが,正常上限の10倍超は62%,100倍超は23%であった.循環障害の程度を反映すると考えられるALT/LDH比は,ferritinの上昇とともに有意に低下していた.また,ferritin高値群では,ミトコンドリアAST/総AST比,およびapoptosisの指標であるM30/M65比が高値であった.これらのことから,網内系の活性化が強い場合,肝細胞のミトコンドリアが早期に障害され,apoptosisを誘導していると推察された.(2)HBVに起因する症例では,ferritin低値例が多かった.CTLの関与をみるため,肝静脈血でsFASLを測定したところ,HBV群で有意に高値を示したが,necrosisの指標であるCyclophilin Aも同時に高値であった.(3) 74名にステロイド動注療法を施行し,予後の改善を認めたが,特にALT/LDH比低値群で有効例が多かった.【考察】急性肝不全の肝細胞死には,2つの主要な経路があると考えられる.1つは網内系の活性化に始まる循環不全で,主にapoptosisを誘導する.他方はCTLによるFAS刺激だが,apoptosisを完遂できずにnecrosisへ向かう.ほとんどの症例では,この両者が任意の割合で関与しており,その優位性で経過が異なる.治療にあたっては,どちらの経路が優位なのかを考慮した上で,病期や細胞破壊の強さまでを総合的に勘案して治療方針を決定することが必要である.
索引用語 急性肝不全, apoptosis