セッション情報 ワークショップ4(消化器病学会・消化吸収学会合同)

過敏性腸症候群の診療における現状と問題点

タイトル 消W4-5:

過敏性腸症候群(IBS)における大腸鏡の現状と今後の貢献の可能性

演者 水上 健(国立久里浜医療センター・内科)
共同演者 小松 弘一(横浜市立市民病院・消化器内科), 鈴木 秀和(慶應義塾大・消化器内科)
抄録 IBSの実際の診断過程ではアラームサインから大腸の器質性疾患を除外するため30%の患者が大腸鏡を経験していることが2010年のJROAD-IIIで報告されている.大腸鏡の検査項目は現時点では粘膜性状や色調であり,苦労して検査を受けてもほとんどが「異常がない」結果となる.排便障害で著しく生活を制限されている患者にとって「検査で異常がない」現状は受け入れにくい.我々は腸管容積変動を抑制し,腸管形態に合わせた捻り挿入で苦痛を軽減した大腸鏡挿入法「浸水法 」を開発し,無麻酔大腸鏡では検査の心理的負荷で鎮痙剤投与後長時間持続する腸管運動異常がIBSの一部で観察されることを報告した.さらに腸管運動異常が観察されない症例の多くは無症状者の2倍以上挿入に時間を要する腸管形態異常を持つ検査困難症例で,下痢症状症例では通過障害の原因となる腸管の捻れとその前後で2倍以上の腸管径変化があることを報告した(消化と吸収2012; 34(3): 277-285).当院を昨年4月より12月まで受診したIBS患者172名中,前医で大腸鏡経験歴があったのは60.5%(104名)であったが,高度の疼痛を自覚したのは未麻酔群82.5%(33/40名),麻酔群ですら48%(31/64名)と高頻度であった.高度の疼痛を経験した群の71.8%(46名)は当院での再検査を受け,「浸水法」と挿入困難例での疼痛軽減効果を報告している先端柔軟大腸鏡(WJG2012; 18(32): 4454-6)の使用で無麻酔でも違和感程度で検査を終了した.無麻酔大腸鏡では「腸管運動異常」が観察され,無症状者の2倍以上の挿入時間は「腸管形態異常」を示唆する.これらをIBSの異常所見と捉えれば,現状でも大腸鏡は強力な認知療法のツールとなりうる.「腸管運動異常」や「腸管形態異常」を大腸鏡により患者自身の目で確認して「体質」として受容し,「挿入困難」という形で医師に共感してもらうことで病態にあった治療をポジティブに受けることが可能となる.治療困難で来院した患者の診断・治療経過を含め提示する.
索引用語 IBS, 大腸内視鏡