抄録 |
【背景と目的】過敏性腸症候群(IBS)は,慢性・反復性の腹部症状があるにもかかわらず,器質的疾患を認めない機能性消化管障害である.IBSの原因のひとつとして自律神経活動が指摘され,IBS治療ガイドライン第1段階では薬物療法,食事指導,運動療法などの生活習慣改善指導が行われ,これらが自律神経に影響し,症状改善につながることはよく知られているが,強度や時間などを詳細に検討した報告は少ない.我々は,IBS患者の運動に対する認識を確認し,運動強度,時間,休息を再指導した後の症状および自律神経活動変化について検討した.【方法】糖尿病性自律神経障害や不整脈を認めないRomeIII基準を満たすIBS患者32名を対象とした.1)アンケート形式にて運動内容,主観的運動強度(PRE;rating of perceived exertion),時間,頻度,運動後休息の有無を記録し,運動時最大心拍数より算出したカルボーネン法運動強度と症状スケールとともに比較検討した.パルスアナライザーを用い,心拍変動の低周波成分(LF),高周波成分(HF),および心拍変動係数(CVRR)を算出し,LF/HFを自律神経バランス(交感神経の指標),CVRRを自律神経活動の変動として治療前後で比較した.2)症状改善乏しい患者に,1)で症状改善を認めた運動強度,休息を指導した後,症状改善の有無と心拍変動変化を再検討した.【結果】1)運動内容は,「していない」から「登山」まで様々で,「ウォーキング」が最多だった.PRE 6-13を20-30分間,週3,4回が多く,カルボーネン法で35-45%であった.運動強度,頻度では症状改善に差を認めなかった.PRE 10以上ではCVRR増加を42%に認め,LF/HF高値を62%に認めた.運動後休息群で症状スコア,CVRRおよびLF/HFが有意に改善していた.2)PRE 8(運動強度約40%),時間20分,週3回,運動後休息を指導した後では,症状スコア,CVRRおよびLF/HFの改善を有意に認めた.【考察】本研究により適切な強度,時間,休息の運動療法指導でIBS治療により良い効果があることが示唆された.治療目的で効果的な運動を実践するには,その人にあった運動内容を適切に処方する必要があると考えられた. |