抄録 |
【目的】膵性糖尿病(PDM)では,膵内分泌不全だけでなく外分泌不全を伴うため,膵消化酵素補充療法(pancreatic enzyme supplementation: PES)を適切に行い,栄養状態を維持する必要がある.我々はPDM症例に対しPESを行い,脂質だけでなく糖質の消化吸収改善を認めた3例を経験したので報告する.[症例1]71歳男性, 膵全摘術後(膵癌):13C-BTA呼気試験のCmax:17.3(‰)[31.2‰未満で膵外分泌不全], fecal fat:29.6(g/day)[5g/day以上で膵外分泌機能不全], 術後にPDMを発症,当初はベリチーム®6g/dayおよびinsulin強化療法を行っていたが低血糖が頻回に出現していた.消化酵素薬をリパクレオン1800mg®1800mg/dayに変更後,低血糖は殆ど無くなり,その後BMI:14.3→16.1,Alb:3.2→3.8(g/dl)に改善,HbA1c:9.2→9.8(%)と上昇,総insulin投与量:14→24単位/dayまで増量された.[症例2]68歳男性, 膵頭十二指腸切除術後(胆管癌): 術後に高血糖を認めPDMと診断.Cmax:19.6(‰),fecal fat:35.4(g/day)と脂肪便を認め,PES(パンクレアチン®3g+タフマックE®3g/day)を行ったが,脂肪便が十分に改善されず,リパクレオン®1800mg/dayによるPESに変更した.その後,5ヶ月でBMI:19.2→21.3,Alb:3.7→3.7とBMIで改善を認め,HbA1c:7.8(%)に上昇した.[症例3]67歳男性,膵体尾部切除術後(慢性膵炎)Cmax:19.6(‰),fecal fat:14.7g/dayと脂肪便を認めたため,PES(ベリチーム®9g/day)を開始.3ヶ月でBMI:18.1→20.8,血清Alb:3.8→3.8と主にBMIで改善を認めた.HbA1c:8.8→9.4%と悪化し,総insulin投与量:6→24単位/dayに増量となった.【結語】PDM症例では,PESによって糖質吸収が改善されると,残存insulin分泌能によっては血糖も上昇する事があるため,PES導入または変更の際はinsulin等による調整が必要である. |