抄録 |
(目的)NASHにおける肝発癌症例の臨床像を明らかにする目的で,NASH非発癌例との対比と発癌例の特徴について検討した.(対象と方法)対象はH1年からH24の間に当科にて診断された肝細胞癌637例中,臨床的に原因不明65例の中で組織学的にNASHと確診された7例に細胆管癌1例を含めた8例と,組織学的確診NASH非発癌35例の計43例である.これらを対象に以下の項目につき検討した.1)発癌群と非発癌群における,A臨床因子(年齢,性,BMI,生活習慣病の合併)とB病理因子(Grading, Staging)の検討.2)発癌例の臨床病理学的特徴の検討.(成績)1)A発癌群/非発癌群:年齢63.6±14.9歳/55.5±15.4歳,性(男6例/13例,女2例/22例),BMI 28.2±9.3/25.6±3.6),糖尿病62.5%/48.5%,高脂血症37.5%/65.6%,高血圧症75%/31.3%で,発癌群は非発癌群に比し有意(P=0.05)に男性が多く,高齢で糖尿病と高血圧の合併が高い傾向にあった.B Grading(0/1/2/3)は発癌群(1例/4例/3例/0例),非発癌群(0例/18例/16例/1例)と両群間で差はみられず,Staging(1/2/3/4)は発癌群(0例/1例/4例/3例),非発癌群(16例/8例/8例/3例)と発癌群で有意(P=0.0221)に線維化が進行していた.2)肝疾患として定期にフォローされていた症例はなくいずれも初診時に肝癌を発症していた.C-P分類はA87.5%,B0%,C12.5%.Stageは1 50%,2 37.5% ,4 12.5%.JIS scoreは0 50%,1 37.5%,5 12.5%.診断から1週間で肝不全死した29歳の若年性肝細胞癌を除く7例に手術が施行された.7例中5例(71%)に38±28か月で異所性再発を認めた.肝癌の組織は,高分化癌1例,中分化癌6例,細胆管癌1例であった.(結語)NASHという集団を特定しこの集団を定期的に経過観察する必要がある.特に,線維化の進行した高齢の男性例は肝発癌の高危険群である.また,初回治療後,高頻度に異所性再発を来すことより,発癌後にはより厳重な経過観察が必要である. |