抄録 |
【目的】FD患者の多くは食後に上腹部愁訴が出現し,また胃排出の低下症例が存在する.一方その症状はストレスによって増悪するが,ストレスの主たる生体調節因子はCRFであり,さらにこのペプチドは胃排出(GE)を抑制し,胃運動を空腹期から食後期のパターンへと変化させる.これらの事実から,CRFはFDの病態に関与することが推測される.今回は末梢CRF受容体(CRF1,2)の胃運動に対する作用について検討した.【方法】胃運動は,胃収縮,GEを無麻酔無拘束ラットで評価した.胃収縮は胃前庭部に3Frのカテーテルを挿入し,圧トランスデューサーで測定した.圧データのarea under curveを測定し,薬剤投与前後1時間の胃収縮の変化を評価した.またGEは,10分間で飼育食1.5gを摂食させ,90分後にsacrificeし,胃内容量を測定することにより計算した.【成績】CRFを末梢投与すると,用量依存性(15-30μg/kg)に胃収縮を促進した.CRF1,2非選択受容体拮抗薬のastressinを前投与しておくと,この反応は阻止された.CRF2の選択的拮抗薬のastressin-2Bを投与すると,この反応は増強された.CRF2の選択的アゴニストであるurocortin2は,基礎状態の胃収縮に変化を与えなかったが,前投与によりCRFの促進作用を抑制した.CRF1の選択的アゴニストであるcortagineは,胃収縮を促進させた.同用量のCRFは,GEを抑制した.【結論】拘束ストレスをラットに負荷すると,GEの低下とともに,胃収縮は促進することが示されている.今回の実験で,CRFの末梢投与が,これらのストレス反応をmimicできることが明らかとなった.一方FD患者では,GEの低下とともに,近位胃収縮の促進が起きている症例が報告されており,これらの変化が相乗して胃壁のtension receptorを強く刺激し,痛みに関与することが指摘されている.これは,末梢CRFがFDの病態に関与する可能性を示唆する.胃収縮の促進は,CRF1を介し,CRF2はCRF1の作用を抑制する.これは生体に有害となりうる過度なストレス反応を収束させる,合目的なシステムであると解釈できる. |