セッション情報 ワークショップ12(消化器病学会・消化器内視鏡学会・消化吸収学会合同)

機能性ディスペプシア-診断と治療の現況を巡って-

タイトル 内W12-5:

H.pylori 関連胃炎の血清診断を基盤とした機能性ディスペプシアの位置づけ~胃がん検診受診者での検討~

演者 榎本 祥太郎(和歌山健康センターDELIMITER和歌山県立医大・2内科)
共同演者 吉田 岳市(和歌山健康センターDELIMITER和歌山県立医大・2内科), 渡邉 実香(和歌山健康センターDELIMITER和歌山県立医大・2内科)
抄録 【背景】日常臨床において機能性ディスペプシア(FD)は診断が困難で,とくにH.pylori (HP)感染者の多い本邦では,背景となるHP関連胃炎を無視できない.また,合併例の多いGERDとの関連も考慮が必要である.FDの範疇からHP感染例を除外すべきか否か議論の余地はあるが,HP関連胃炎の萎縮や炎症の評価に基づく酸分泌動態は,FDとGERDの鑑別の点からも重要因子である.【方法】検診目的で内視鏡検査,抗HP抗体価・血清ペプシノゲン(PG)検査,Fスケールを施行した1165人を対象とした.胃炎ステージはHP(-)PG(-)をA群,HP(+)PG(-)をB群,HP(+)PG(+)をC群,HP(-)PG(+)をD群に分類し,ステージ別およびHP抗体価・PG値と各症状につき検討した.【結果】対象の68%が有症状者であった.ステージ進展で,酸逆流症状は低値(A群1.83, B群1.77, C群1.46, D群1.29: p<0.05)を示したが,ディスペプシア症状に差はなかった.逆流性食道炎(RE)は,ステージ進展で有所見率が低下した(A群30.6 %, B群14.5%, C群6.5%, D群0%: p<0.001).GERDのうちNERDの占める割合はステージ進展で高くなった(p=0.081).HP感染陽性例(B・C群)では,RE(+)例で,PG I/II比が有意に高く(p<0.001),HP抗体価が有意に低値であった(p<0.05).B群において,RE (+)例でHP抗体価は有意に低値で(p<0.05),PGII値も低い傾向があり(p=0.09),PG I/II比は高い傾向があった(p=0.07).A・C・D群ではREの有無によりPG値・HP抗体価に差はなかった.【考察】胃炎ステージとの関連から,A群はGERDに伴う症状が多く,B群でもA群同様にGERDに伴う症状が多いが,胃粘膜炎症の強い例では酸分泌が抑制されGERDによる症状は少なくFDとの関連性が高い.酸逆流症状はステージ進展で減少するがディスペプシア症状に差はなく,C・D群などの萎縮進展例ではFDに伴う症状の可能性が高い.【結論】HP関連胃炎の血清診断はFDの病態把握に役立ち,検診受診者でもFDを拾い上げられる可能性が示唆された.
索引用語 慢性胃炎, ディスペプシア