抄録 |
【目的】胃適応性弛緩は,食事摂取後の近位胃の弛緩反応であり,一酸化窒素(NO)作動性神経によって調節を受けている.一方,セロトニン受容体;5-HT2Bは,胃穹隆部に存在し, 5-HT2B受容体の活性化は,胃平滑筋の収縮を誘導することが知られている.しかし,5-HT2B受容体と胃適応性弛緩の関係は明らかとなっていない.そこで我々は,覚醒下モルモットモデルを用いて胃適応性弛緩に対するNOと5-HT2B受容体の関与を検討した.【方法】ハートレーモルモット(5週齢,オス)の胃前庭部大彎から胃底部にポリエチレンバックを挿入し留置した.胃適応性弛緩は,モデル作製後7から14日目に流動食 (4mL, 1.7 kcal) を経口投与し,ポリエチレンバック内に空気を注入し,バック内圧を測定することで評価した.NO合成酵素(NOS)阻害薬;NG-nitro-L-arginine (L-NNA) (1-10 mg/kg) ,5-HT2B受容体作動薬;BW723C86 (5 mg/kg) ,5-HT2B受容体阻害薬;SB215505 (6 mg/kg),六君子湯 (250-1,000 mg/kg),あるいは六君子湯の成分で5-HT2B受容体拮抗作用を有するイソリクイリチゲニン(0.125-4 mg/kg) は流動食投与前に経口投与した.【成績】蒸留水投与後ではバック内圧は低下せず,流動食投与後にバック内圧は有意に低下し,栄養素を含む流動食で胃適応性弛緩の誘導が観察された.SB215505は流動食投与によるバック内圧低下に影響を与えなかったが,BW723C86は,流動食投与によるバック内圧低下を有意に抑制した.BW723C86の効果はSB215505の同時投与により消失した.L-NNAは,用量依存性に流動食投与後のバック内圧低下を阻害した.SB215505 , 六君子湯, あるいはイソリクイリチゲニンは,L-NNAによる胃適応性弛緩の抑制を有意に改善した.【結論】胃適応性弛緩は,NOによって誘導されると共に5-HT2B受容体によって抑制性に制御されていることが明らかとなった.さらに,5-HT2B受容体拮抗作用を有するイソリクイリチゲニンは胃適応性弛緩障害を有意に改善した. |