セッション情報 ワークショップ16(消化器外科学会・消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器癌に対する幹細胞研究の現状と展望

タイトル 消W16-3:

Atoh1発現大腸癌における幹細胞形質獲得とニッチ形成

演者 加納 嘉人(東京医歯大・消化器病態学)
共同演者 土屋 輝一郎(東京医歯大・消化器病態学), 渡辺 守(東京医歯大・消化器病態学)
抄録 【背景,目的】以前より我々は腸管上皮細胞分化遺伝子であるAtoh1と癌形質の関連に着目し,APC変異の大腸癌においてAtoh1蛋白がWnt-GSK3依存性ユビキチンプロテアソーム系蛋白分解により未分化形質を維持することを明らかとした.一方で,APC変異のない大腸粘液癌ではAtoh1蛋白が発現し分化形質を有するがより予後不良であると考えられている.Atoh1発現における大腸癌の悪性度,予後への関与は不明であることから,今回我々はAtoh1蛋白の安定化による癌幹細胞形質を含めた悪性形質制御機構の解明を目的とした.【方法,結果】Atoh1蛋白分解認識部位である5個のセリン残基をアラニン残基に置換したAtoh1変異体を散発性大腸癌細胞株に導入したところ,安定してAtoh1蛋白が発現しMuc2,TFF3等の粘液産生形質を獲得した.マイクロアレイ解析により癌幹細胞マーカーであるLgr5,ALDH1の発現が上昇し,プロモーター解析,ChIP解析によりAtoh1が直接Lgr5発現を制御していた.さらにsphere形成能の上昇,G0/G1期の延長,抗癌剤耐性などの癌幹細胞形質を獲得することが明らかとなった.またLgr5ノックダウンにより抗癌剤耐性は解消された.さらにヌードマウスへ移植して形成した腫瘍では一部に印環細胞様形態の粘液産生細胞が出現する一方で,Lgr5陽性細胞も増加し腫瘍形成能の上昇を認めるなどAtoh1が粘液産生と癌幹細胞形質を同時に制御することが示唆された.免疫染色による解析によりこの腫瘍では粘液産生細胞とLgr5陽性細胞が二分極化されヘテロに存在しておりAtoh1が幹細胞と粘液産生細胞のニッチ形成を制御することが明らかとなった.【結論】粘液産生大腸癌におけるAtoh1発現は粘液分化形質と癌幹細胞形質のニッチを形成し癌幹細胞の維持と粘液産生細胞への多分化能を有することが悪性度に寄与すると示唆され,Atoh1が真の治療標的となり得る.
索引用語 Atoh1, 癌幹細胞